5章 Side:愛梨

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 どうして友理香は何も言ってくれないのだろう? もしかして、目の前の男性が話しているのは英語じゃないのかもしれない。友理香が英語と中国語と韓国語を扱えることは知っているが、もし彼が他の言語で話しているのなら、友理香にも彼の言っている事がわからないのかもしれない。  けれど、それなら愛梨には尚更わかるわけがない。どうしよう、どうしよう、と困惑を極めていると、男性の背後でエレベーターの扉が開いた。 「あれ、愛梨?」 「ユキ……」  そこには愛梨にとっての救世主が搭乗していた。エレベーターから降りてきた雪哉は、愛梨と友理香と目の前の男性の3人の姿を見比べると、 「ん? 何かトラブルでもあった?」  と不思議そうな顔で訊ねてきた。愛梨の隣にいた友理香が、一瞬動いた気配がする。男性と同じように雪哉も少しの間は首を傾げていたが、状況を判断して優先順位を考えたらしい。 「Can I help you?」  雪哉が男性に向かって話しかけると、彼はようやく安堵したように息をついた。やはりセクハラだった訳ではなく、男性は雪哉に向かい先程と同じ抑揚で何かを問いかけ始める。相変わらず話している内容は一切わからないが、傍観して冷静に聞くと言語が英語であることだけは辛うじてわかった。 「Upper floor is cannot be used.」 「I see, That's a problem. 」 (ユキが英語喋ってる!? って、それはそうだけど!)  そして傍観して冷静になると、別の驚きがやってきた。通訳として派遣されているのだから雪哉が英語を話せるのは当り前なのだが、実際に話しているところを見て聞くのはこれが初めてだ。
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