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「愛梨。ごめん、なさい……」
「大丈夫だよ。でも私、ホントに日本語しか喋れないから、もう放置しないでね?」
「う、うん。もうしない」
ごめんなさい、ともう一度謝られる。
確かに困りはしたが、愛梨は最初から怒ってなどいなかった。だから再び俯いてしまった友理香の頭を撫で、もう1度『気にしないで』と呟く。
(ユキのばか。こんなに可愛い子を、あんなに追い詰めて怒ったりして)
友理香は純粋で真っ直ぐだ。だから可愛らしい嫉妬心から、愛梨を困らせてやろうとちょっとした悪戯をしたつもりだったに違いない。そしてそれが、思わぬ事態に発展してしまっただけのように感じる。
社会人としてやってはいけない事をしたのは間違いないし、相手を間違えれば大問題だとは思うが、友理香の心情を思えば雪哉が怒るほどの事ではないようにも思う。
(甘いのかな、私)
雪哉と友理香の正確な関係性や、数日前の通訳室でその後どんな会話があったのかはわからない。けれど友理香は自分の心に正直で無垢であるが故に、実年齢より幼稚な悪戯に失敗して、その結果社会の道理から少し外れてしまっただけのように思える。そんな可愛らしい失敗を、目くじらを立てて責める気持ちにはなれない。
それに社会の道理からの逸脱程度なら、雪哉のほうがよほど盛大にコースアウトしている気がする。
と言うのを口に出す事は出来ないけれど。
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