6章 Side:雪哉

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「ま、俺だったら報告しないな。トラブルはギリギリ免れてるし、可愛い幼馴染みちゃんに懇願されてるし、友理香にも悪気あったわけじゃないし」  自分の評価にも関わるし。  と言うのは口にしなかったが、強かな浩一郎ならきっとそう思っているだろう。眼鏡の奥からこちらを見る瞳を見つめ返すと、にっこりと笑われた。 「雪哉が自分の正義感を取るか、2人の乙女心を酌んであげるかの差じゃないか?」 「そうですか…」 「てーか、その場にいたら凍りつくだろうけど、後から聞いたら結構ウケるなその状況、うははは」 「……」  笑えるぐらいなら大した事ないだろ、と言いながらも、浩一郎はなんだかんだでちゃんとしたアドバイスをくれる。年の功には適わないなぁと思っていると、余計な一言を付け足された。 「あと俺が雪哉なら友理香も幼馴染みちゃんも美味しく頂くけどな?」 「そこの意見は求めてないです」  即答すると浩一郎はケタケタと笑いながら、再びキーボードを叩く作業に戻っていった。 「奪えそう?」  数分経過して、直前に喋っていた内容など忘れそうになった頃に、ふと訊ねられた。  あまり深くまで話したつもりはなかったが、今回の一件の流れを相談する際に、巻き込んだ相手が自分の幼馴染みであることを話の中に軽く織り込んでいた。  雪哉としてはあっさりと話したつもりでいたし、それが自分の想い人であることまでは伝えていなかったが、やはり自分が興味関心を持っている事柄に関してはやたらと目敏い澤村(さわむら)浩一郎。 「……どうでしょうね」 「女子にはストレートが1番だけどな」 「うーん。これ以上ストレートに攻めて大丈夫なのかな……」 「おまっ……ストレートに腹黒いのは嫌われるぞ!?」  驚いて飛び上がった浩一郎に、小さな反抗を覚える。どうしてこの人はすぐ人を腹黒いと扱いたがるのだろう。いつも否定するが、今回もちゃんと否定する。 「だから、腹黒くないです」  だが前ほど否定の言葉に自信がない。  最近自分でも、腹黒いと思う事が多々あるから。
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