辛口美容男子のすすめ

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 その日の夜、夕飯を食べ終わった頃に電話がかかってきた。画面に「加々美くん」と表示され、私はスマートフォンを耳に当てる。 「もしもし」 「もしもし、俺だけど。飯ちゃんと食べたか?」  名乗りもしないでオレオレ詐欺か。冗談が思い浮かぶが言うと怒られそうだ、と胸にしまった。 「うん、食べたよ」 「何作ったんだ」 「……野菜炒め。ちゃんと肉も入れたよ」  ぼそっと答える。もっと温野菜とか肉茹でろとか言われるかな……。 「疲れてたのに、よく頑張ったな」 「ほぇ?」  警戒していたのに想定外のことを言われ、間抜けな声が出た。 「何変な声出してんだ。まぁ、いいか。スピーカーにして洗面台に置いてくれ。顔の洗い方説明するから」  そこまでするのか。一瞬不満になるが、やはり言い返せない。それ以上にここで嫌がったら負けた気がする。高校時代に培ったスポ根精神に火がつき、私は指示通りスピーカーにして、洗面台に置いた。 「洗顔料は俺が買った奴使え。しっかり泡立てること、あと、こするなよ」  細々言われると苛立つが彼の傷一つない肌を思い出すと、文句は言えない。私はネットを使い泡出てていく。加々美くんのおすすめはみるみるうちに雲みたいな泡になった。こすらないように洗う。よくよく考えると、いつも慌てて色々してたな。 「洗い終わったら、丁寧に優しくすすげ。拭くときもこすらないで当てるように、だ」  ぬるめのお湯ですすぎタオル押し当てるように拭いていく。ふと、正面の鏡に映った自分を見た。当然、いきなり輝く美肌になるわけにはいかなかったが、心なしかキレイになった気がする。 「よし、よくできたな。なら、今日は早く寝ろよ」 「分かってるわよ」  本当に細かいというか、マメというか。なんでそこまで・・・・・・。 「なんでそこまで気にかけてくれるの?」 「女は誰でもキレイになれるのに、それを気にしないのがむかつく」  その答えに鏡の私には皺が寄った。 「むかつくって何よ。こっちは色々と大変なのに」 「でも、キレイになりたいって言ってキモがられないだろ?」  彼の弱々しい声に言葉を失う。誰がそんなことを言ったのだろう。両親、友人あるいは彼女なのか。私はあれこれ質問したい気持ちを飲み込んだ。 「・・・・・・誰にでもキレイになりたいと思う権利はあるよ。だから一緒にがんばろ、小山内くん」  そう言うと、今度は加々美くんが素っ頓狂な声を漏らす。 「え、あ、な、何を言ってんだ。そんなの当たり前に決まってんだろ。じゃ、俺はもう寝るからな、そっちも早く寝ろよ。おやすみ!」  それを最後に電話は切れた。スマートフォンの端には20:00と表示されている。思わずくすっと笑ってしまった。
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