ワンシーン

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「……これ、何枚撮ってるんだ立川……」 「いやぁ……。枚数が知りたいなら、先輩数えてください」 「断る」  画面に映し出された写真には何枚もの皆沢先輩の姿が映し出されていた。 「卒業式の写真撮影って名目がなけりゃ、こんなの犯罪レベルだな」 「しょうがないじゃないですか。だって、今日の皆沢先輩すっげー、綺麗でしたし」  立川の言うことには俺も深く同意見であった。  いつもは長い黒髪を括ることなく、髪を下ろしている皆沢先輩であったが今日の皆沢先輩の髪型は編み込みがしてあり、いつもとは全く違う印象を受け、いつも以上に綺麗に見えていた。平常の皆沢先輩が放つ大人の女性の魅力のようなものが、今日。さらに磨きがかかっていたのだった。 「まぁ、わからんこともないがこれも、もちろんなしな」 「わかってますよ。それは自己満足で撮っただけですし」 「あぁ、自己満足だけにしとけ」  先ほどはあんなことを言ったが、好きな人の晴れ舞台であり晴れ姿。その美しさを表現し、留めるものを手にしながらそれをしないということはありえない。至極当然のことであり、一人の写真家としても、愛する人を持つ人としても当たり前の行動なのである。  俺は一通り立川の撮った写真を見終えたので、今度は転送していた自分の撮った写真のフォルダを開いた。 「さすが小室先輩ですね。どれも絵になりますね」 「まぁ、今ではこの部活で俺が一番歴としては長いし、部長だしな」 「ほんとですね。じゃあ、これからは小室部長って呼んだほうがいいですかね?」 「なんか会社みたいだからやめてくれ……」 「確かにそうですね」  俺たちしかいない部室棟には先ほどから話す俺たちの声以外には音はなく、静けさの中に俺たちの声は響き過ぎていた。だから、一層今日が卒業式で人がいなくなること、人がいないことを醸し出していた。 「……って、小室先輩もちゃっかり撮ってるじゃないですか」  立川が指摘したのは、俺の撮った写真をスクロールしている時に現れた皆沢先輩を撮影した写真であった。立川ほどではないが、俺もカメラのスクリーンに皆沢先輩だけを収めている写真を数枚撮っていたのだった。 「まぁ、皆沢先輩には俺も思い入れがあるからな……」  高校の先輩であり、部活の先輩にして、部長。そして、高校に入って初恋の人であり、初めて振られた人。先輩との関わりは二年もないくらいだが、高校三年のうちの二年近くも占めていれば、十分俺の今日まで生きてきた人生の中で大きな影響を与えている人物であることには違いなかった。 「そういえば、小室先輩と皆沢先輩が初めて会ったのっていつなんですか?」 「そんなこと聞いてどうするんだ?」 「別にどうってことはないですけど、あれだけ仲がいい先輩たちの馴れ初めを聞きたいじゃないですか」 「馴れ初めって、言い方が少しおかしくないか……?」 「大して変わりませんよ。それで、いつなんですか?」  自分が好きだった人のことを、自分が好きだった人の彼氏に話すというのも中々稀有な話ではあるが、先輩のいなくなったことに幾ばくか傷心していた今の俺は誰かに先輩への想いを吐きたかった。 「そうだな。俺が入学して間もない頃だったよ……」
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