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「結局、誰も入りませんでしたね」
「誰もではないよ。小室くんが入ってくれた」
「それって、何か違いますか?」
「全く違う。小室くんがいなければ、今こうして誰かと話してはいないし、この部室の中で私は一人、自分の撮った写真を黙々と見ているだけだった。だから、全く違うのよ。小室くんがいるといないでは」
季節もすっかり冬になり、外でもちらちらと雪が降る中、俺と皆沢先輩は自分たちが撮った写真を見せ合っていた。
皆沢先輩のあの部活勧誘によって、入部した俺以外誰もこの写真部に入部する人はいなかった。
「なんで、もっと部活勧誘しなかったんですか?」
この写真部に部員が少ないのにはここ一年で心当たりがあった。それは、他の部活と違い写真部、というより皆沢先輩は自主的に部活勧誘を行わなかったのだった。やったことと言えば、掲示板に他の部活とおなじように部活勧誘のポスターを貼った程度。四月の部活勧誘期間に至っても、新入生に声をかけたりしなかったし、それ以降も俺に対して「友達に部活のこと勧めたりしなくていいからね?」なんて言ったりして、人数が少ないわりには、それに見合った行動をしなかった。
「人数が少なくて困ってるけど、人数を増やそうとはしない。何か理由でもあるんですか?」
俺の撮った写真をパソコンの画面を通して見ながら、皆沢先輩を見る俺のことを見ることなく、皆沢先輩は一人でに語った。
「私は好きなことをしてほしい。そして、好きなものを、好きなように撮ってほしい。だから、私たちから勧めて、入って来てほしくはないの」
「でも、教えられて初めて好きになるってこともありますよね?」
「そうね。それも確かにある。いや、むしろそっちの方が多い。でもね。私はもっと根幹。それこそ、生まれた瞬間から写真のことが好きな人に入って欲しかったのよ」
「生まれた瞬間から好きって。流石に無理があると思いますけど……」
「わかってる。でも、小室くん。これを見て」
パソコンの前の椅子に座っていた皆沢先輩が椅子を回転させてこちらへと、パソコンの画面が見えるようにしてきた。
先輩が見せてくれたパソコンの画面には俺が撮った夕日の写真が映っていた。
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