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「小室くんはどうして、この景色を撮ったの?」
「どうしてって、綺麗だなぁって思って撮りました」
「なら、どうして綺麗だって感じたの?」
「どうして、綺麗だってそれは……」
自分で撮った夕日の写真を見ながら、その夕日が綺麗だと感じ撮ったあの日のこと。そして写真を見ながらその理由を考えた。
だが、とっさに答えが出て来なかった。
先輩は考える俺のことをじっとその答えが出るまで待ってくれているのでじっくり考えるが、答えが出て来ない。
なぜ、自分があの日あの瞬間。夕日が綺麗だと感じカメラのボタンを押したのかがわからなかった。
「つまり、そういうことなの」
返答ができずにいた皆沢先輩は俺にそう言った。まるで、俺が答えられないのをわかっていたかのように。
「写真という形を残す行為をしている時に、不意に私はそういう瞬間にかられることがある。なんで、シャッターを切ったのかってね。そして、誰に教えられたわけでもないのに、綺麗だなって感じる瞬間がある。それがなんでだろって考えたりもしたの」
皆沢先輩は俺に向けていた体を再びパソコンの画面の方へと向けて、俺の撮った夕日の写真を見ながら言った。
「あぁ、理由なんてないんだなって。そう思ったわ」
そう呟いた瞬間。その瞬間の皆沢先輩の横顔、両の手を太ももの上に置き、背筋は綺麗にまっすぐでいつもの長い黒髪がすぅっと重力によって下がって椅子の背もたれにかかっているその様。その刹那に俺は魅了された。
「ほら、『なぜ山に登るのか。目の前に山があるからだ!』って言葉があるでしょ。そんな感じの人が来て欲しいなって。だから、部活勧誘をあんまりしなかったの。それに、人見知りだったのもあるから、あんまり──」
「皆沢先輩」
気付いた時には俺は自分の座っていた席を立ち上がり、皆沢先輩のすぐそばへと来ていた。
そして、高鳴る心臓をなんとか抑えながら。
先ほど見てしまった皆沢先輩の姿を頭の片隅に置いて、これ以上高鳴る心臓をはやめるのを抑えながら。
今日までの皆沢先輩のことを思い出し、そんな想いがありながら、自ら俺の手を引っ張ってくれたあの日の皆沢先輩を思い出しながら目の前の先輩に向かって想いを告げた。
「皆沢先輩のことが、好きです」
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