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「な、なんか想像していた十倍。いや、百倍はすごいですね……」
「そんなことないさ」
「そんなことないって、そんな話初めて聞きましたよ」
「俺も初めてだったよそんな恋は」
俺の話を聞いている間、微動だにしなかった立川は固まりきった体をほぐすために、一度大きく背伸びをした。
「今まで、皆沢先輩と小室先輩ってすっげーお似合いの二人だなって思ってて、俺も三笠も二人のことについて聞けなかったですけど、やっぱりお似合いの二人でしたね」
「やめろよ。俺なんかよりも立川の方がお似合いだよ」
「何言ってるんですか。小室先輩には勝てませんよ」
「さっきから何言ってるんだ。俺は振られて、お前は成就した。勝ち負けで言ったら立川の勝ちだろ」
「えっ?」
「ん?」
先ほどまで部室棟に俺たちの声が響き渡っていたのに、二人の呆気ない声が響いてからしばしの沈黙が訪れる。
二人は二人して、それぞれの認識を確認する。
「立川。お前、皆沢先輩と付き合っているよな?」
「いやいや、皆沢先輩と付き合っているのは、小室先輩ですよね?」
その瞬間。二人の認識のズレを確信した。
「一つ確認だ立川……」
「なんですか?」
「立川がこの部活に入ってまもなくして、立川は皆沢先輩に告白した。これは合っているか?」
いまだに呆気にとられている顔をしながらこちらを見ていた立川が答えた。
「違います。僕は皆沢先輩に告白したことなんて一度もないですよ……?」
「ちょっとまて、だってお前。あの時、皆沢先輩に好きですって言って、付き合ってくださいって言っていたじゃないか。それで、皆沢先輩も了承して……」
「いつの話ですか、それ?」
「今年の春。いや、去年の春か? とにかく立川が入部して間もない頃だ。放課後立川と皆沢先輩しかいない時に、偶然俺が忘れ物をして、部室棟に来ていた時に、そう聞いた」
俺の言葉を聞きながら、思い出している立川がハッと目を開く。
「あぁ! 動物園のことですか!」
「ど、動物園?」
「入部してすぐに、動物の写真が好きだって話を皆沢先輩にしていたんですよ。それで、動物園に一緒に行って、写真を撮るのを付き合ってくれませんかって、言ったことがあります」
俺は頭の中で当時のあの衝撃的な場面を回想する。しかしながら、立川の言うような言葉は一切出て来なかった。でも、目の前にはそのセリフを口にした本人がいて、本人がそう言っているということは……。
「ということは、立川と皆沢先輩は付き合っていない……?」
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