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「ただいま。」 「おかえりー、ってパパ大丈夫?」 「大丈夫だよ。」 と言いながら父が冷蔵庫のドアを開ける。手に取るのはビール。まだジャケットも脱がないうちからプルタブに指を引っかけている。 「パパさあ。なんかお酒の量増えてない?」 「そうかなあ。」 増えてるよ。これまでは家に帰るなりお酒に手が伸びる人じゃなかったよ。母は台所から静かに見守っている。でもこっそり溜息をついたのを私は見逃さない。 「ね。九時からお笑い選手権テレビでやるよ。モチ見るよね。今のうちにさくっとお風呂入ってきちゃいなよ。」 「んー。」 歯切れの悪さに嫌な予感。 「いや明日も早いからなあ。今日はやめとくわ。」 なんとなく予想は着いてたけど、内心舌打ちする。 いつもならお笑いと聞くだけでポテンシャルぶっちぎりになる父だけど最近は乗ってこない。今日に至っては完全に上の空だ。生まれてから16年間、この人の娘として暮らしてきたけどこんな父は初めてかも。 「取り敢えず着替えてきたら?それ明日も着ていくんでしょ?」 母がたしなめると、ああそうだなあと口先だけは動いた。が、足は一向に動こうとしない。冷蔵庫の前に立って振り返りもせずビール缶を煽ってる。 私、顔には出してないつもりだけど。内心ではわしゃわしゃもやもやと苛立ってる。 どうしてパパがこんなふうに病まなきゃならないの? 人と接するのが大好きな、ごく普通のおじさんなのに…… そう思えば思うほど、ムカつきは止まらない。
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