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「はーい、こんばんは! アサトです。アナザーストーリー。今日もお父さんの日記帳はじめますよー!」
中学生編。アサトはドラマがあると言っていた。
「実はさー、俺、中学の頃、めちゃくちゃ反抗期で。お父さんとめっちゃやり合ってたんだよねえ。ここからは、アサト・反抗期編だよ!」
<反抗期!>
<俺も今めっちゃ父親うざい>
コメント欄に頷く。時期や期間の差はあるだろうが、父親がウザくない子どもなんていないだろうと思っている。
「10月3日。アサトが最近口を聞いてくれなくなった。中学に上がってからは、アサトも部活で忙しいし、仕事もあって、話す時間が取れていなかった。次の休みはアサトとゆっくり話してみよう」
<あー>
<あちゃー>
コメント欄に頭を抱えた絵文字が炸裂する。
わかる。これは、よくない。親の都合で話す時間を取られても、子どもは話す気なんてさらさら出ないし、何より親と話すよりも楽しいことがたくさんある。
「10月10日。アサトにちょっと話そうと誘ってみたが、忙しいと断られる。テレビに負けたと思うと悲しい。できる限り、夕飯の時間を合わせられるようにしようと思う。これねー、ダメだったんだよねえ」
親とお話ししながらご飯、なんてハヤトからしたら苦行だ。アサトも例に漏れず、黙ったまま速攻で食べてさっさと部屋に引きこもっていたらしい。
「まあ、それで、ちょっと親がウザくなってきてね。続き、読むよ。10月15日。アサトが目に見えて親を邪険にし始めた」
宥めたり叱ったり、いろいろ試したけれどダメだったという。
「11月5日。アサトは挨拶もしなくなった。声をかければゴミ箱を蹴り上げ、部屋に行けば怒鳴られる。もう腫れ物を扱うようにしか、アサトに話しかけられなくなった。可愛いアサトはもういないのだろうか」
<お父さん……>
<ウザいのはわかるけど、かわいそうだな>
<こう見ると、大人の気持ちもわかるね>
<物に当たるのいくない!>
最もなコメントばかりだけれど、ハヤトはモヤモヤしていた。アサトの反抗ぶりがハヤトに似ていたからかもしれない。
<お父さん、諦め早すぎ>
叩きつけるようにキーを打って、コメントを放つ。それくらいのことで、話しかけるのやめるなよ。腫れ物扱いするんじゃねえよ。
「11月20日。アサトが家出した。警察のお世話になってしまった。子ども一人の気持ちもわからないとは情けない。何を間違えたのだろう。……大人もさ、心折れる時があるんだよな」
アサトが寂しそうに笑う。
「12月5日。アサトがボロボロになって帰ってきた。最近、帰りも遅い。心配だから夜遊びはするなと言ったが、アサトはこちらを睨むだけだった。心配だけれど、ここが帰ってくる家であると良い」
「12月20日。アサトが帰ってこない。探しに行く。家出だったら良いが。夜遅くでも、アサトと同い年くらいの子どもたちが多い。うるさく言いすぎたかもしれない。明日は、同じくらいの歳の子たちに、アサトを知らないか聞いてみよう」
淡々と読んでいくアサトが急にパタンと本を閉じた。
「はい、ここでおしまい! 続きはまた来週!」
<えええー!>
<ここで!?>
<気になる!>
「来週も見てね! コメント、チャンネル登録よろしく。来週、日記帳最終回だよ。シーユーアゲイン!」
プツリと配信が途絶えた。アサトらしくない慌ただしい終わり方だった。中学生編が終わってないが、高校生編はやらないのだろうか。ドアを見るが、特に誰かくる気配はない。階下に行ってみるが父親はいなかった。
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