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その風貌からして、おそらくあの、先刻も部屋を覗いていた男性従業員であろう。
彼がまた、僕らの部屋をこっそり覗いていたのだ。
まったく! なんという失礼な従業員なのだろう!
覗き癖でもあるのだろうか? それとも、もしや本当に手癖が悪く、盗みを働く隙を覗っていたとか?
ここまでくると、いくら温厚な僕でも放ってはおけない。後で膳を下ろしに来た時に女将に文句を言ってやろう……。
久々に強い憤りを感じ、そう考える僕だったが、意外や収膳とは違う目的で女将さんは僕らの部屋にやって来た。
「お客様、少々よろしいですか?」
「はーい! ちょっと待ってください!」
廊下からそんな女将さんの声が聞こえたので、そう断わりを入れると急いで父さんに覆面と手袋を着ける。
「お待たせしました。どうぞ……!?」
そして、準備が整うと引き戸を開けたのだが、襖一枚隔てた向こう側に立っていた人物に、僕は目をまん丸く見開いてしまった。
そこには女将さんの他、あの覗き魔の従業員や中居さんも揃っており、さらにはその背後に制服姿のお巡りさんまでがいたのである。
「ちょっと失礼しますよぉ……」
唖然と立ち尽くす僕を横目に、まだ若いお巡りさんは皆の後から前へ出ると、そのまま僕も押し退けて部屋の中へと侵入する。
「あの、これはいったい……」
「すみませんねえ、ちょっとお父さんのお顔を拝見させていただきますか?」
一拍置いて我に返り、状況を把握できずに僕が尋ねると、お巡りさんは父さんの方をじっと凝視して、いきなりそんなことを口にするではないか!
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