1/1
前へ
/9ページ
次へ

 目を開けると、見慣れた天井が見えた。窓からの光が明るい。朝だ。 「…あれ?」  自分の家だ。俺は布団の上に寝かされていた。  寝息が聞こえるので横を向くと、親父の背中があった。少し離れた所で、こちらに背を向け寝ている。  俺は起き上がった。 (俺、あの階段のところで寝ちまったのか…)  腕を伸ばして伸びをする。そのまま頭を振って、長めの前髪を払った。  立ち上がり、寝かされていた布団をたたむ。  服は昨夜のままだったので、着替えた。  親父が起きる気配はない。  俺は頭をがしがしっと掻くと、薄手の毛布を寝ている親父にそっとかけた。 「さんきゅ」  ミイラ取りがミイラ、っていうんだっけ。親父を連れて帰るはずが、俺のほうが寝入って、親父に連れ帰られたってことだな。 (俺のこと避けてるみたいなのに、俺に甘いんだよな)  こんな親父だから置いていけない、とか思っちゃうわけだ。 「俺ってやさしー」  俺は朝ごはんの準備をした。いつもどおり、親父の分も用意する。  一人で朝食を食べ、食器を洗い、さっと身支度を整える。  俺は戸口に立つと、相変わらず寝たままの親父を振り返った。 「行っってきますっ」  元気に言うと、学校へ行くため家を出た。  道を駆けながら、ぼんやりとしている記憶を呼び覚ます。  昨夜のこと。  外階段で眠り込んだ俺を背負って歩いていく、親父の背中の温もり。  布団に寝かせた後、頭をなぜた親父の手の心地よさ。  俺のほほが緩んでいく。  こういう役得があるから、チビであることも、まあ悪くない。だって、背が高くてごっつかったら、背負ってもらえないだろう。  結局、俺は親父が好きなのだ。ダメ親父で、避けられてるみたいでも、ね。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加