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 俺の住む区画は、貧しい人々が多く暮らすエリアだ。いちおう屋根や壁はあるけれど、大半が風雨をしのげればいい、といった粗末な作り家ばかりだ。もちろん、道に街灯なんてものもほとんどない。家から洩れる光なんてのも、ほとんどない。暗い道だ。  一方、隣の区画は中流階級の労働者たちの住むエリア。家はしっかりした作りで、鍵付き、窓付きのちゃんとしたものばかり。仲のいい仲間たちも、だいたいこのエリアの住人だ。  ちなみに、さらに遠くの区画に行けば、防犯対策も警備もしっかりした金持ちエリア。いけ好かない連中ばかりだけれど、仲間たちとのたまり場は、このエリアの住人の家だったりする。いろいろ便利なんだよね。  狭い町なのに、様々な階級がぎゅっと詰まっている。  変な町ではあるが、意外にも治安は悪くないので、こんな夜更けに俺のような子供がひとりで歩いていても、そんなに危なくない。まったく危なくないわけじゃないけれど、住人であれば自衛手段のいくつかは持っている。  区画をゆるやかに分けている大通りを渡った。  前方にパブの明るい看板が見えてきた。そのパブの脇で、ゴミ出しをしている人がいた。長身だがまだ子供のようなシルエット。  向こうも俺に気づいた。 「よお、サブ。こんな夜遅くにどこ行くんだ?」  明るく声をかけてきたのは、ハヤだった。"サブ"も"ハヤ"も通称だ。  俺はハヤのそばまで行って立ち止まった。  ハヤの家はこのパブだ。父親がパブの主人で、息子のハヤはよく手伝いをしている。俺も時々、店内掃除のバイトをやらせてもらって、生活費の足しにしている。 「親父を迎えに行くところ。△△の方の店で眠りこけてるって連絡あってさ」 「遠いな。ほとんど隣町じゃないか」 「この辺の店じゃ、もうたっぷり飲ませてもらえなくなったからだろ」 「まあなあ、お前の親父さん、ほんとよく飲むもんなあ。うちも飲ませすぎないよう、途中で追い出しちゃってるかも」 「そゆこと」 「いやでも、親父さんの体を心配して、だからな。飲みに来るなって言ってるわけじゃないよ」 「わかってる。そもそも親父が、毎晩飲み過ぎなのが悪いんだよ」  俺は苦笑した。親父は稼いだお金を全部お酒に使ってしまう。だからうちは貧乏なのだ。 「迎え、ひとりで大丈夫か?」 「平気、平気」 「でもお前の背じゃ親父さん背負えない・・・」 「うるせー。背はそのうち伸びんだよ。歩かせるし。大丈夫だっつーの」 「そ、そっか」  身長のことを言われて食い気味に反論した俺に、ハヤは苦笑いを返した。同い年なのに、俺とハヤの身長差は、並ぶと頭一つ分違う。身長ネタは、俺らの仲間内ではテッパンネタとはいえ、やはり心穏やかに聞くことはできない。俺の、プライド、だ。まだまだ伸びる、成長途中。 「ま、とりあえず、さんきゅ」  俺は気を取り直して、ハヤに礼を言った。ハヤはいつもの穏やかな笑顔を向けた。 「気をつけてな」 「ああ」  俺はハヤと別れた。
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