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「まだ終わらんのか」
パブから、エプロン姿の大男が出てきた。この店の主人であり、ハヤの父親だ。たっぷりした顎髭のごっつい男で、柔和で線が細めのハヤとの血のつながりが、正直まったく見えない。
「ああ、父さん、今、サブがいたんだ」
「こんな夜遅くにか?」
「お父さんを迎えに行くんだって」
「またどこぞの店で眠りこけてんのか」
「そうらしい」
ハヤは軽く肩をすくめた。だが思い出したように、父親を見上げた。
「父さん、なんでサブのお父さんは、あんなにお酒を飲むの?」
大男は息子の顔をちらりと見た。その顔は、ほんとうに、ただ不思議に思っているだけで、非難の色は微塵もなかった。
父親は夜空に顔を向けた。
「寂しいんだろう」
ハヤは父親の顔を見た。
「寂しい?」
「さ、中に入るぞ。もう少ししたら店閉めるからな」
父親はそう言うと、踵を返し、店内に戻っていった。
ハヤはほんの少しだけ、サブが歩いて行った方を眺めやり、そうして父親の後を追って店内に戻った。
父親の言ったことを理解するには、まだ彼は子供だった。
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