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 俺はすぐそばの飲み屋に入り、店員を捕まえて、親父の容貌を伝えた。すぐに、どの店で眠りこけているのか教えてくれた。  通りを歩いていると、見知ったにーさんやねーさんなんかがいて、軽口をきいては別れた。小遣い稼ぎに便利屋みたいなことをしているから、実はあちこちに知り合いがいる。  仲間たちに言わせれば、俺は"人たらし"なのだそうだ。なぜか皆、かわいがり、気にかける、と。俺が子供なんだからそんなもんだろう、と思っているのだが、リーダー曰く、違う、のだそうだ。 「ミズ・ミリアみたいな、余計な人にも好かれてるけどな」  リーダーが心底楽しそうにニヤリと笑って言っていたのを思い出す。  ミズ・ミリアは、この街にあるローカル誌の記者だ。天上天下唯我独尊、猪突猛進のはた迷惑な女性。悪い人ではないが、11歳の俺に、どんな新聞ネタがあるというのか、しょっちゅう付きまとってくる。なんかある、と彼女の勘がささやいているのだそうだ。 (ま、なくもないけどね)  いたずらを仕掛けた後のような気分で、内心でミリアに舌を出す。 「あった、ここか」  俺は、小さな看板を出している、少し暗い照明のバーのようなパブに入った。店内に人はほとんどいなかったが、壁際でテーブルに突っ伏している男を見つけて近づいた。  見覚えのある作業着に、ボサボサの髪。横向きになっている顔を覗き込み、確かめた。  親父だった。  カウンターにいた、ちょび髭のマスターらしき人に声をかけたら、店の外まで連れ出すのを手伝ってくれた。お代は支払い済みだというので安心した。 「どうやって連れ帰るんだ?」  マスターは、チビな俺の頭から足まで眺め、心配そうに聞いてきた。  俺は起きる気配のない親父の両腕を、自分の両肩に乗せて背負うようにし、マスターに振り返った。 「こーやって引きずっていく」 「大丈夫か?」 「ま、なんとかなるっしょ」  俺がそう言うと、マスターはちょっと呆れたように苦笑したが、俺の頭をポンポンと軽くたたくと「気をつけてな」といって店内に戻っていった。 (また頭に手を置かれた。チビだから乗せやすいのかよ)  ちょっと癪に障る。が、とにかく親父を連れ帰ることが先だ。  俺が飲み屋街を、親父をずるずると引きずって歩いていると、何人かは冷やかし、何人かは短い距離でも手伝ってくれた。  結局、なかなかの見世物として、酔っ払いたちを楽しませてしまった。
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