家庭訪問

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家庭訪問

某年4月、私はあるクラスの担任となった。この時期は生徒も新しい環境に馴染んでおらずコミュニティーを形成している只中である。このタイミングでクラスの空気を読むことに失敗するとその生徒は灰色の高校生活に堕ちてしまう。それを救うなんてドラマの教師でなければ無理だ。しかし、1人1人がどんな生徒か把握し波風を立てないように学校生活をマネジメントすることくらいならできる。 そういった意味で、家庭訪問は教師にとっても重要なイベントだ。家庭環境と親を知ることができ、家という生徒にとってホーム、教師にとってはアウェイな場所で話をすることで学校では見えない一面が垣間見えたりする。 今日は学年トップのインテリ女子である角田羽純という女子生徒の自宅に訪れることになっていた。チャイムを鳴らし相手の応答を確認した。 「お邪魔します!角田さんのご自宅ですか?私、○○高校の聖(ヒジリ)です。」 インターフォン越しで女性の声が聞こえてきた。 「はい、開けますのでお待ちください。」 ドアが開くと羽純が出てきた。羽純は私を部屋に迎え入れた。 「角田さん、今日、保護者の方は見えないのかね?」 「はい、祖父母は病気がちで対応できませんし保護者といっても、何の関係もない人達ですから。お金だけもらって妹と2人で暮らしています。」 「少し特殊な家庭環境だから仕方ないとは思うが、一応親御さんと話をしないといけないのだよ。」 「そう言われると厄介だと思ったので、親がいないこと黙ってこの日に予定を入れたのですよ。」 「ああそう・・・まあ親御さんがいなくても話だけはしていこうかな。」 羽純は居間に私を通した。座ってしばらく待っていると良い香りのするコーヒーが出された。 「ありがとう、新しいクラスには慣れたかい?」 「まあ、3年生ですから知り合いも多いですし、緊張もないですよ。」 「それで3年生もアルバイトをしながら受験勉強するのかい?」 「そうですね。学費を稼がないといけないですし、妹の面倒もみないといけないですから。」 「そうか、できれば勉強に集中できると良かったのだが、やはり難しいだろうな。」 「大丈夫ですよ。そのあたりは自分で何とかしますから。」 こんな雑談をしながら、生徒のイメージを掴んでいく。親から話を聞けなくても、込み入った話を聞けることがメリットと言える。学校では語るのは憚れるだろう。
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