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どこか罪悪感もあり、踏み切れなかったが、決心がついたのは今朝の事だ。
やっぱりあんな父なら、いない方がマシだ。
せめて、大事な時くらいどこかへ行ってくれれば……
今朝ろ父はいつものように、リビングのソファーでくつろぎながら、新聞を読んでいた。
「おはよう」
私の方へ振り返り、そう言った父は、いつもと変わらない様子で、緊張していてるのは私だけだ。
「あのね……大事な話があって……」
と意を決してきりだしたところで、父がプウ、と間抜けなおならをし、私の気持ちを台無しにした。
「なんだ、話って」
黙ったままの私にそう尋ねながらも、プウ、そしてまたプウ、とおならをする。
信じられない。
もう、今更話す気にはならなかった。
黙って家を出ようと、玄関で靴を履いていると後ろか声をかけられた。
「出かけるのか? 車には気をつけるんだぞ」
まったく、小学生でもあるまいし。
25歳にもなる娘に見当違いの心配に、呆れてしまう。
父の今朝の服装といえば、下はお決まりのステテコに、上はスポーツブランドのTシャツとういつもの服装だ。
ブランドと言っても、母がバーゲンセールで買ってきた物で、私が小学生の頃の話だから今では首元が伸びきっている。
「そのTシャツ、いい加減捨てたら」
と、何度か言った事があるが、
「いいじゃないか、気に入ってるんだから。
せっかくお母さんが買ってきてくれたんだし、まだ着れるじゃないか。
それに、似合ってるだろ?
お母さんは掘り出し物見つけるの、上手だからな」
結局、今年もまだ着続けている。
他にもいくつか持っている服は、どれも母がバーゲンで買ってきたもので、自分で選んだ服など持っていないのではないだろうか。
要するに自分の服装には無頓着なのだ。
いや、服装だけでなく、自分の姿そのものにかもしれない。
薄くなった頭髪は、起き抜けのまま、くしを入れていないようで、まるでカリフォルニアの荒野をだだようタンブルウィードだ。
週末は、何か趣味に没頭するわけでもなく、ソファーの上でダラダラと過ごすだけなので、たるんだお腹はまるでトド。
何もやることの無く、ソファーで新聞を読んで、あくびをして、時々おならをする。
いや、やる事はあった。
母の手料理を褒めて、時々私の余計な心配をする事。
ただそれだけ。
仕事をしている姿は見た事がないが、どう考えても、頼れる上司という雰囲気ではない。
無駄に汗をかき、ペコペコ取引先に頭を下げているに決まっている。
しかも、指紋で汚れた眼鏡と曲がったネクタイでは、誠意は伝わらないだろうと勝手に想像してしまう。
一体なぜ、母はこの人と結婚したのだろうか。
母ならもっと良い人と、出会えたに違いない。
子供の頃は授業参観日に、母が来てくれる事が誇らしかった。
友達に「お母さん、モデルみたい」と言われることも嬉しかったし「お母さんに寝てるね」と言われる事も嬉しかった。
最近、子供の頃はあまり考えてこなかった疑問が浮かぶようになった。
なぜこの人が父親なんだろう。
なんの取り柄も無く、休みの日には、ごろごろしているだけの存在。
物置に、スノーボードや釣具が埃をかぶっているのを見た事がある。
飽きっぽく、長続きしないのだろう。
私の記憶では、どちらも連れて行って貰った記憶がない。
デジタルのカタログを見ていても、父とのあまりのギャップに戸惑うばかりで、決められない。
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