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レンタル
恐る恐る自動ドアを潜る。
「いらっしゃいませ」
店の奥から、複数の店員の声が聞こえてきた。
木製のテーブルと、椅子が並べられた店内は、お洒落なカフェの様だ。
レンタルショップと言っても、DVDやCDを気軽にレンタルする雰囲気とは随分違う。
初めて入店をする私は勝手が分からず、キョロキョロと店内を見渡していると、その様子を察してか、すぐに一人の店員が声をかけて来た。
店名のロゴ入りのポロシャツ姿で、短くサイドを刈り上げだ髪型は、スポーツクラブのインストラクターを想起させる。
「いらっしゃいませ。当店のご利用は、初めてでしょうか?」
「はい。あの……来週なんですけど、彼が結婚の挨拶に家に来る事になっていて……母には伝えてあるんですけど、父にはまだ……」
と言い淀んだところで、来意は伝わったようだ。
「そうしましたら、お客様におすすめの商品を、いくつかご提案させていただきますので、アンケートをご入力の上、こちらでお待ち下さい」
四人がけの席に案内せれると、ドリンクのサービスがあったので、コーヒーを注文し、アンケートの入力用のタブレット端末を受け取った。
出されたコーヒーは、香りを嗅いだだけで、インスタントではないとすぐにわかった。
その味を、しっかりと堪能しながら、アンケートを入力していく。
氏名、年齢など個人情報はもちろん、利用目的や好みを記入する項目がある。
——好み——
改めて考えてみると分からない。
私は一体何を求めて、ここへ来たのだろう。
時間をかけて、どうにかアンケートを入力し終えた。
タブレットを返却した後、コーヒーの残りを飲み終えた所で、先程の店員が戻ってきた。
「お待たせ致しました。ご用意が出来ましたので、早速ご覧ください」
と、タブレット端末をスクロールしていく。
モニターには白髪まじりのダンディな男性、日焼けした肌のスーポーツマン風の細身の男性、自営業らしいヒゲを蓄えた男性などタイプは様々である。
皆、概ね五十歳代であろう中年男性は、私のリクエスト通りだ。
選び放題。だが、それも困り物だ。
店員が画面をタップすると、身長、体重、性格や趣味など詳細が表示された。
「いかがでしょう」
尋ねられても、何を基準に選べば良いか分からない。
まさか外見だけで、選ぶわけにもいくまい。
『子は親を選ぶ事は出来ない』
などと言うが、今は違う。
今日は選ばなければいけない。
父をレンタルしにきたのだ。
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