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二人は草のトゲでボロボロになり、岩につまずいたり木の根っこに引っ掛かったりしながら、なんとか匂いのする方へと歩いていきました。すると、お腹を空かせた可哀そうな兄妹の前に突然、あかあかと光る何とも可愛らしい小さな家が現れたのでした。
その家はまさに魔法そのものでした。信じられないことに、家そのものが、かぐわしい匂いをはなっています。二人がおそるおそる近づくと、グレーテルがペロっと窓枠を舐めてみました。
「お兄ちゃん!!この家、美味しいよ!!」
ヘンゼルも我慢できずに思わずパクリと家にかじりつきました。
「驚いたなあ!これはケーキの家だ!!」
「こっちの壁はクッキーだよ!!」
二人はむさぼるようにして、家を食べました。二人が分かっただけでも、屋根はダークチョコレート、壁はスポンジケーキ、窓枠は固いキャンディーでできていました。それに、マジパンでできた花や動物が庭のあちこちに置いてありました。マジパンでできたピンクの猫をかじるとき、グレーテルはほんの少し罪悪感を覚えましたが、尻尾までペロリと食べつくしてしまいました。
「坊やたち、何をしているの?」
と後ろから声をかけられました。いつの間に、そこにいたのでしょう。柳のようにほっそりとしたはかなげで美しい女性がキラキラと輝く琥珀色の瞳でヘンゼルとグレーテルを見つめていました。二人は驚いて、お菓子を食べる手を止めました。そして、恥じ入るように、二人ピタリと隣にくっつきました。
「あの、ごめんなさい・・・僕たち、とてもお腹空いてて、どうしても我慢できなかったんです。」
「・・・ごめんなさい、お姉さん。」
女の人は、ヘンゼルとグレーテルを見た瞬間、驚いて目を見開きました。
「まあ、あなたたち、ものすごく痩せてるじゃないの!ガリガリよ、何日も食べてなかったのね、お名前は何と言うの?」
女の人は、なぜかホロホロと涙を流しながら、二人をギュッと抱きしめました。
「ヘンゼルです。」
「グレーテルです。」
二人は、苦しくなるぐらい女の人に抱きしめられながら、でも心はなぜかほっとしていました。
「ヘンゼルとグレーテルね。来てくれて嬉しいわ。さあさ、中に入ってちょうだい。家が無くなっちゃ困るからね。お家の中にいくらでも食べ物があるのよ。」
二人は、生まれてはじめて、食べきれなくなるまでお腹いっぱい食べました。お菓子の家の中には、外よりもたくさんのものがありました。お菓子だけではありません。シチューも肉もフワフワのパンも何でもありました。ヘンゼルとグレーテルが美味しそうに食べる姿を見て、女の人は泣いていました。
「あの、どうしてそんなに泣くんですか。」
とヘンゼルが聞きました。
「私は、私はね・・・・・いえ、何でもないわ。」
「僕たちが何かいけないことしたんでしょうか。」
自分の家でいつも無視されているか、怒られることしかないヘンゼルはすっかり縮こまってしまいました。
「いいえ、とんでもない!!そうね、今に分かるわ・・。どうか私のことは気にせず食べてちょうだい。」
「いえ、もうお腹いっぱいになりました。」
「そう、じゃあもうベッドに入りなさい。もうすぐしたら陽が昇るころよ。ずいぶん疲れてるでしょう。」
ヘンゼルとグレーテルは顔を見合わせました。優しくしてくれたとはいえ、知らない人の家で眠るなんて大丈夫でしょうか。しかし、睡魔にはどうしても勝てません。
「ありがとうございます。休ませていただけると助かります。」
ヘンゼルはペコリと頭を下げました。
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