0人が本棚に入れています
本棚に追加
5
「あなた!!やっとたどり着いてくれたのね!」
と白い女の人が叫びました。
「ヘンゼル、グレーテル!!そして、ロザリア!やっと見つけたよ!!」
ヘンゼルとグレーテルは訳が分からずに、二人の大人をキョロキョロと見回しました。
「子どもたちをこんな目に合わせて!絶対に許さないわ。」
「本当にすまない・・・俺は、父親失格だな。」
「お父さん!!一体、どうなってるの!?」
たまらずグレーテルが叫び声を上げました。お父さんはゆっくりと兄妹の方を向き、言いました。
「紹介しよう。この人は、お前たちの本当のお母さんだよ。」
ヘンゼルとグレーテルは、驚いて声も出ませんでした。
「じゃ、じゃあ・・・僕たちが良く知ってるお母さんは?」
「なんで、お母さんが変わっちゃったの!?」
お父さんは、気まずそうに口をつぐんでいました。
「俺も忘れていた・・・。ヘンゼル、グレーテル。お前たちが生まれたばかりのころは幸せだったよ。だけど、何でだろうな。しだいに、お母さんと。そこにいるお前たちのお母さんと上手くいかなくなってしまったんだ。だから・・別れようという話になった。お前たちにとっても、すまないことをした。」
本当のお母さんは、拳を握りしめ、わなわなと震えていました。
「そして、そして・・・・あんな悪魔のような女に惑わされたのね。男なんかに、子どもを任せるんじゃなかったわ!!自分で子どもを産んだことも無いくせに!」
「素敵な女性だと思ったんだ!!でも、俺はきっと何かの魔法をかけられていた。」
父さんは必死になって、説明しようとしました。その時、テーブルの近くからモクモクと黒い煙が立ち上りました。煙の中からは、真っ赤な燃えるような瞳をしたもう一人のお母さんの姿が現れました。
「いつから、見破っていたんだい!!完璧な呪いをかけていたはずなのに!」
お父さんは唇をぎゅっと噛み、怒りに身を震わせていた。
「ああ、見事な呪いだったよ。記憶まで書き換え、子どもたちを憎むように仕向けた。もう少しで愛する子どもたちを失うところだった。君は焦りすぎたんだ。子どもたちが家からいなくなってから、君が『あのガキどもを追い払ってくれた』、と言った。そこで、目が覚めたんだ。君は、しつけのためと言って暴力を振るい、罰だと言って無視をした。だけど、本当は僕の子どもを人間だと、思っていなかったんだ!」
もう一人のお母さんは黒い炎を勢いよく噴き出し、絶叫しました。
「畜生!!もう少しだったのに!!もう少しで、わたしは・・。でもね、私のお腹の子は正真正銘あんたの子さ!」
「もう少しで、なんだい?」
お父さんは、ジリジリともう一人のお母さんの方に近づいていきます。
「う、うるさいよ。あたしはただ・・・。」
「普通に、なりたかった?」
「・・・・・。」
激しい炎は嘘のようにおさまり、お母さんの緑の瞳からは、小さな涙が流れていました。
「可哀そうに。君がもし、自分の姿や力をありのまま受け入れ、普通に僕に好意を向けていてくれれば。君を本当に愛していたかもしれないのに。」
お父さんはもう一人のお母さんの手を握り、最後に優しいキスをしました。良く見ると、その手の皮膚はまるで象のようにカサカサで、緑の瞳を持った目元は、シワシワでした。口と口を離してから、お母さんは、じっとお父さんの目を見ると最後に、こう笑って言いました。
「普通って、なんのことかしら?」
再びモクモクという黒い煙に包まれ、お母さんは姿を消しました。そして、姿を消した後には干からびたような小さな黒いトカゲが息絶えていました。
最初のコメントを投稿しよう!