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午前7時ーー
尋夢はその場で深呼吸をすると、ゆっくりとドアノブに手を掛けて扉を開ける。
部屋に入った瞬間、自身を包み込む甘い香りに、思わず欲情しそうになりながら、彼はベッドの上にできた布団の膨らみに近づく。
「つばさーっ、遅刻するぞ〜」
「ぅんん〜……あと、じゅ……ぷ……」
「ほら! 起きなさい」
自分よりも縦に大きいくせに、いまだに可愛らしい声を出し甘えてくる義理の息子。
彼は閉じたままの瞼を右手で擦りながら、その場でゆっくりと起き上がると、尋夢の胸元へと寄りかかる。
「こらっ! 重いだろ」
「んふふ〜。……尋くん、おはよ」
寝起きの、鼻にかかった掠れた声で言葉を発し、そのまま自然な流れで尋夢の頬に口づけをする。
「そっ、それ、やめなさいっていつも言ってるだろ!」
「ただの挨拶だよ。尋くん焦りすぎ。……ん〜〜っ! 今日の朝ごはんは何かな〜」
唇で触れられた頬をおさえながら慌てる尋夢を部屋に置き去りにして、翼は1人でリビングへと向かって行く。
(あいつ……また俺をからかいやがって……)
彼のペースにのまれ、悔しいながらも幸せを感じてしまう自分が嫌になる。
尋夢は、煩く鼓動を打ち続ける自身の胸に手を当てながら、ゆっくりと息を吐く。
(大丈夫……まだ……大丈夫。この気持ちは、バレてない)
『気持ち悪っ……』
何度も夢で見た、義理の息子から発せられた拒絶の言葉が、脳裏を過ぎる。
(俺と翼は、ただの親子……)
そうやって、今日も自分の心に言い聞かせてから、邪な気持ちを部屋の中へと置き去りにして、ゆっくりと扉を閉めると、彼が待つ食卓へと戻って行った。
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