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机上妄想論 - END
ーーー妄想、理想。
夢を見た。
春花にとっては、現実かと錯覚するかのような、妙にリアリティのある夢。
楓と、見知らぬ女の人が手を繋いで、仲良さそうに遠くへ歩いていく夢。
まって!楓ちゃん!
私を置いていかないで!私、どうしたらいいのか、、、!
楓ちゃん!
行っちゃ嫌だ!
わたしを、一人にしないで。
もう、一人になりたくない…
ハッと目が覚める。
体から滲むように出てくる汗、見慣れた景色が、今まで見ていたのが夢だと証明する。
大きくため息が出る。
自然と頬を伝った涙を袖で拭いた彼女は、部屋のカーテンを開け、外の天気を確認する。
今日も雨。
「支度、しないと」
朝食を済ませ、制服に着替えた彼女は、玄関で父親に挨拶をしていつも使っているお気に入りの傘を手に取り家を出る。
どんな顔をして楓ちゃんに会えばいいんだろう。
いつも通りの顔で、
(それはね、恋ってやつだよ、)
無理無理!平常心でいるのが精一杯なのに
私が、楓ちゃんの事を、好きだなんて…
歩いていると、後ろから聞き慣れた声で私を呼んでいる。
楓ちゃんだ。
平常心、平常心。
「おーはよ!春花!」
「おはよう!楓ちゃん!」
よかった、大丈夫。怪しまれてない。
これなら大丈夫。
「そういえば、昨日の件なんだけど」
「へぇ!?」
「うぉ!ビックリした。急に変な声出さないでよ」
「あ、ご、ごめん!雨が耳にかかっちゃって」
昨日の話。
意識しちゃう。
ダメ、楓ちゃんの顔が見れない。
「あの話さ、結局なんてアニメなの?」
「え?」
「ほら、春花の悩み事の話だよ」
「いや、本当分かんなくて」
「えー、面白そうだから私も見たかったんだけどなー、ずるいぞ!」
「あ、あはは…」
「でも、なーんかどっか既視感があるんだよなー、うーん。」
き、気づかれちゃう!
「そ、それより、今日の放課後って部活ないの?」
「え?あー、雨降ってるからグラウンドも使えないし、多分家帰って自主練かなー?」
「そ、それじゃあ今日の放課後、待ち合わせして帰「あー!でもごめん」」
「今日は他に友達と約束しててさ!一緒に帰るのは少し厳しいかも!」
「あ、そうなんだ、」
「うん、いや本当ごめん!」
「大丈夫だよ!」
「申し訳なネコ....」
「いや、それは本当に意味が分からないよ。」
「この前は犬だったから、今回は猫という事で」
「それは分かるよ…」
学校までの距離は、歩いて20分位の距離だけど、楓ちゃんとなら一瞬の距離に感じれ る。
ずっと、このまま笑いあえればいいのに。
「そんじゃ私、コッチだから」
「あ、バイバイ、授業寝ないでね!」
「そっちもなー、机に落書きしないでよー?」
「しないよ!それにアレは楓ちゃんが犯人でしょ!」
「あはは、じゃーねー!」
そう言って楓は自分のクラスに駆け足で向かった
「んもぅ!」
自分の教室に入り、クラスの友達を挨拶をして自分の椅子に座る春花。
机の端に書かれた落書きを見て、困った顔をするも、だんだん微笑ましくなっていた。
楓ちゃんの落書き
鞄から筆箱を取り出した彼女はペンを取り出して、机に書かれた落書きにそっと、落書きを書き足した。
その机はまるで、二人だけの世界のように。
ーーー机上妄想論
終業のチャイムが学校に響き渡る。
春花は一通り友達に挨拶を終え、クラスの教室から出ると
今朝の事を思い出す。
(「今日は他に友達と約束しててさ!一緒に帰るのは少し厳しいかも!」)
あ、そっか、今日楓ちゃんは一緒に帰れないんだ。
少し不満そうに下駄箱に向かう最中、
ズキッ
え、また。
ズキッ
痛い、なに。
ふと頭の中に楓と女の人が相合傘をして帰っていく光景が目に浮かぶ。
そんな、いや、女の子同士手を組むなんて、私も楓ちゃんとよくやるし
まさか、無い無い。
(私達、親友なんだから!)
(いつもの春花が私は好きだよ!)
(それはね、恋ってやつだよ、)
かえで、ちゃん。
下駄箱に向かう角を、慎重に曲がる。
楓ちゃん、居ませんように…
居ない。
よかった
その場でため息をついた春花は、自分の下駄箱から靴を取り出して履き替える。
大丈夫、だって、楓ちゃんだもん。
私の一番大事な、大好きな。
下駄箱を出る春花。
そこには、楓と女の子の後ろ姿。
あ、楓ちゃん。
二人で傘入ってる。
手、繋いでる。
--------------エピローグ
空は、まだ曇ってる。
灰色に近い色をして。
最近雨の日が多い。
憂鬱だ。
毎年この時期は中々晴れにならなくてもどかしい。
雨は嫌いじゃないなんて友達は言うが、私は気分が落ち込むから好きにはなれない。
雨はまるでこの世界が流している涙のように見える。
私の気持ちも、流して欲しい。
-----机上妄想論 fin
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