机上妄想論-1

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机上妄想論-1

---プロローグ タイミング、運命というのは余りにも突然で。 急に不幸なこともあれば、幸せなことだって起きる。 幸と不幸はルーレットのように巡り回ってくるものだ。 あの出来事から数年、私の人生は大きく変わっていた 父と二人で施設から出て、普通の人間と変わらない生活を送るようになると、身の回りに起こる全てのことが、新鮮な、初めての出来事。 身の回りの知識、時間という概念。色とりどりの景色。 学校、友達、情報量がいっぱいの世の中。 ”新しい世界” ---私の友達 -空が曇っている。 -青、というより灰色に近いような。 -道路の隅の草木でカエルも最近よく見るようになって、雨の日が多いのは憂鬱に感じ る。 -毎年この時期は中々晴れにならなくてもどかしい。 -雨は嫌いじゃないなんて友達は言うが、私は気分が落ち込むから好きにはなれない。 -雨はまるでこの世界が流している涙のように見える。 「はーるかっ!」 彼女の名前をすぐ真後ろから発せられた声とともに左肩が叩かれる衝撃に全身を一瞬震えさせ、その声と衝撃があった方向へと全身を向ける 振り返りながらも、頭の中ではその聞き慣れた安心する声になんとなく検討はついていた。 「あ、かえでちゃん!」 そう言いながらがホッと胸をなでおろすその姿に驚かせた張本人は嬉しそうに軽く手を上げて挨拶した。 「おーはよっ!今日は朝練休みなんだ、だから一緒に学校行こ!」 「あ、うん!」 そう言う彼女の名前は  "紅葉 楓" もみじ かえで 春花よりも年齢が1つ上で運動系の部活に所属している彼女は たまたま青葉家の近所に住んでいて、まだ春花が今の生活に慣れていない頃、 自宅近所の公園で一人で砂遊びをしていた時に声をかけてくれて仲良くなった、実質春花にとっては初めての友達。 勿論小学校、中学校と進学していて仲の良い友達は何人も出来たが、彼女が心の底から信頼している人物の数少ない一人だ。 楓は持ち前の明るさで男子や女子問わず友達が多く、 運動系の部活に所属している為スラッとしていながらも引き締まった褐色がかった身体、そして髪が邪魔という理由で中学の頃の初めに切った肩にかかる位の短髪と金髪にも近い茶髪が特徴の女の子。 「いやー、まだまだ寒いね…」 「そうだね」 「ほんとジメジメしてて身体動かすのも嫌になるよー、雨も多くて朝練も行きたくないし・・」 「あははっ」 「早く夏にならないかなー、もう目一杯身体動かしたいよ」 「私は暑いの嫌だなぁ、汗かいちゃうし…」 「それが良いんじゃん!こう、あー私身体動かしてるなー!っていう感じもあって、梅雨なんてジメジメしてて、身体が全回復するまで時間かかるんだよぉ…あ、もう私熊になるよ、そうしよう。もう梅雨だけど冬眠しちゃおう…」 「えー、なんでいきなり…ダメだよー、熊さんになると太っちゃうよ?」 「誰が豚じゃい」 「いや豚さんとは言ってないよ…」 身にならない、取るに足らない話をしながら学校に向かう。 こうして二人で学校に向かうのも楓の部活の朝練が休みの時だけ、 小学校の頃は班登校等で周りの人と一緒に登校したが中学校に入ってから一人での登校も増えた。 怖い訳ではない、ただ寂しいだけ。 そんな気持ちも感じることになってから、1年が過ぎ、中学2年生の代になった。 いつも通り、他愛もない会話をしながら登校をして、 学校に着き、下駄箱で別れると彼女とは学年が違うので同年代の友達と共に1日を過ごす。 授業中、昼休み、午後の授業、下校の時間。 終業のチャイムがなると彼女は特に目的も無ければ下駄箱に向かう 部活には入っていない、一時期は部活にも入ろうともしたが文化系の部活も肌に合わず、体育会系の部活は運動神経が余り良い方とは言えないので楽しめず、 そこまで彼女を動かすモノがなかったので入ろうとはしなかった。 「今日は一人か」 下駄箱でボソッと呟く。 彼女は自分から積極的に発言するタイプではないので友達と遊ぶ時も一緒に帰る時も誰かに誘われないと何かをする事ができない。 自分から誘うことは出来ない性分なのだ。 一人で下校する彼女、自宅に帰る途中に商店街のスーパーへ寄って今日の食材を買い、家路に着く。 父親が仕事で帰ってくるのが遅い日は彼女が父親の分まで料理を作る。 それは父親との小さい頃からの約束。 父親に料理を教わり、 父親の分はラップで包んでおき、食べ終えた食器を片付け、お風呂に入り、好きなテレビや本を眠くなるまで楽しみながら、布団に入る。 平凡な、彼女の1日。 布団に入り、携帯で何気なくお気に入りのサイトを循環していた時、一通の連絡が入った。 携帯の画面には  楓ちゃん と表示されている 彼女の友達、楓からだ。 〔やっほー、今何してるの?〕 〔家で特に何もしてないよー、どうしたの?〕 〔今ちょっと電話していい?〕 〔だいじょぶ!〕 暫くすると携帯が鳴る。 画面には約束通り、彼女の名前。 「もしもし?」 「あ、はるか?」 「うん、どうしたの?」 「いや、なんとなくね!少し春花と喋りたくて」 「そうなんだ!全然良いよ!うれしい!」 「うれしい!って、一々反応が面白いなー春花は。」 「えー、そんな事ないよ」 「あはは、で、本題なんだけど」 「うん」 「あのさ、去年も行った、夏祭り覚えてる」 「あ、覚えてるよ!楽しかったよね!」 「そうそう!あれ、今年も同じ日に神社でやるらしいんだけど、一緒に行かない?」 「え!本当に?行きたい!」 「オッケー!じゃあまた近くなったら連絡するね!」 「うん!ありがとう!夏祭りかー、去年の花火凄かったよねー、今年もやらないかなー」 「あー、春花は初めて近くで見たんだっけ?」 「うん、テレビでしか知らなかったから。綺麗だったなー、いろんな模様に咲く花みたいで、ずっと見てたいよ。」 「あっはっは、春花は可愛いなー!」 「か、かわ!?可愛くなんてないよ!」 「えー、可愛いじゃん、私なんて花火より屋台の方が好きだからねー」 「あー、楓ちゃん去年いっぱい買ってたもんね....」 「花より団子っていうかさー、私にはそういうのは似合わないんだよね。私なんて可愛いの似合わないし」 「そ、そんな事ないよ!楓ちゃんはすっごく可愛いよ!頼りになるし、楓ちゃんが居なかったら私...」 「あっはっは、ありがとね!でも、春花の方が可愛いよ。」 「あ、ぁぅ....」 「おっけー!それじゃ予定も組んだ事だし、そろそろいい時間だし切るね!明日朝練だし。」 「あ、あ、うん!また明日ね!」 「うん、おやすみー!」 「あ、まって!」 「ん?」 「あ、あの…あ、朝練、頑張ってね!」 「うん!ありがとね!」 -そう言って電話が切れた。 -なんだろう、この虚しい気持ちは、孤独感は。 -もう少し電話をしたかったのかな。 -でも、楓ちゃんと喋れて嬉しかったな。声が聞けて安心する。 布団に入る彼女の顔は、何処か浮ついている表情だった。 「あ!」 孤独な部屋で一人、何か思い出したように声を出した彼女は布団から勢い良く上半身を上げ、布団を剥いで机に向かう。 (忘れないように、スケジュールに書いておかないと!) 机の引き出しからスケジュール帳を取り出した彼女は、赤ペンで “楓ちゃんと夏祭り” の文字をハッキリと大きめに予定日に書き込んだ。 小さいハートマークを付けて。
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