0人が本棚に入れています
本棚に追加
机上妄想論-2
-----疑問
電話で夏祭りの日を決めてから数日
梅雨も本格的に始まり、道浮く人が傘をさしている。
最近は晴れの日も少ないからなのか、全体的に空気も重く感じる頃
春花は一人、授業終わり、昼休みの教室の窓際で外を眺めながら窓に当たる滴の流れを追いながらボーッとした表情を浮かべていた。
雨は嫌い、だけど少し嬉しい。
楓ちゃんの部活が休みになる事が多いから、 一緒に帰れる事が増える。
今日も、一緒に、帰れたらいいな
窓に映る自分の顔を見る。
ふてくされている様な、不機嫌そうな顔を見て更に小さいため息が出る。
何か楽しい事、無いかな、
楓と共に遊んだ場所、光景を窓に映して楽しかった時の思い出を窓に想い浮かべる。
フフッと微笑んだ彼女は再度ため息を小さく付いて机に突っ伏した。
(なんだろう、この気持ち。)
事は昨日、雨が降る放課後に起きた。
一日の授業終わりで帰り支度をしていると、教室の扉が開く
楓が一学年違う彼女の教室まで来てくれた。
珍しい事では無い、部活の時以外は必ず彼女の教室まで来てくれて一緒に帰ろうと誘ってくれる。
ところが昨日は違かった。
「あ、いたいた、はるかー!」
「あ、かえでちゃん!もう帰る?」
「いや、それなんだけどさ、今日別の友達から大事な話があるからって誘われて二人で帰ることになったんだ。
だから、本当ごめんなんだけど、今日は一人で帰れる?」
「え、あ、そうなんだ。大丈夫だよ!」
「ほんっとうゴメン!この埋め合わせは必ずするから!」
そう言って楓は春花の前で両手を合掌し、頭を下げた。
「いや、謝らなくて大丈夫だよ!とりあえず下駄箱までは一緒だからそこまで行こ?」
「申し訳なイヌ....」
「あはは、なにそれ」
談笑しながら下駄箱につくと、楓が先に玄関に向かいながら背をこちらに向けて言った。
「じゃあ、私先に待ち合わせしているから先に行くね!」
「うん!じゃあまた明日ね!」
玄関に向かって走る楓の姿を下駄箱から見ていると玄関の横から楓と明かに常に仲が良さそうであろう同級生の女友達が傘をさしながら待っていた。
その友達の傘に避難するように入った楓の姿を見た春花。
あ、手を繋いでる。
ズキッ
え、
モヤ。
な、なに、
この気持ち。
その気持ちが今でも続いている。
昼休みの教室でため息を吐きながら春花は考えていた。
(あの時の気持ちは、感じたことのない気持ちだ。)
今日も偶然なのか、朝練なのか。
楓とは一緒に登校していない。
味わったことない感情が気持ちを左右している為、楓と会ってない時間が何時もよりだいぶ長く感じていた。
お昼ご飯も食べ終わり、教室でボーッと窓を眺めていると久々とも思える私を呼ぶ声が近づいてくる。
「やっほ!」
「あ、え、楓ちゃん!どうしてここに?」
「いやいやー何となくだよー、特に用事はない!」
「あ、そうなんだ。」
「そそ、昨日のお詫びも含めて話したかったしねー!」
「気にしなくていいのに…」
春香の席の前の席が空いているのを確認して座り始めた。
「およ?春花、元気ない?」
「え?なんで?」
「いや、何となくだけど。いつもより暗いなーって」
「っ…そんな事ないよ。」
「えー?本当に?いつも春花、何かあるとごもって喋るんだもん。」
「そんな事ないよ、本当に何でもないから。」
楓ちゃんが原因なんて言えない、ましてや本人にそんな相談なんて出来るはず ないよ。
「そっか、気のせいかなー。」
「気のせいだって…」
「ふーん?おぉ?てか春花、ノート綺麗に取ってるねー!」
「あ!ちょっと、勝手に見ないでよーもぅ」
「あー!やったなー!この範囲なつかしー!あ、春花、今ペンもってる?」
「え、ペン?あるけど、、、」
筆箱か適当なペンを取り出して、楓に渡した。
「ノートに変な事書かないでよね?」
「だーいじょぶ、だいじょぶ!ノートには書かない!
あ、ちょっと春花むこう向いて耳塞いで30秒数えてくれない?」
「ノートにはって、、本当に何するつもりなの、、、?」
「変な事しないって!私を信じて!」
「うーんわかったよ、、」
そう言った春花は反対側を向いて耳を両手で塞いで、声を出しながらカウントダウンを始めた。
30・・29・・・28・・27・・・・・・
長いカウントダウン。彼女はペンで何をするつもりなのだろう。
30秒って数えると長い。
3・・・2・・・・1・・・・ゼロ!
ゼロのカウントと同時に元の体勢に戻り始めた、不安と期待を抱えながら。
「じゃーん!」
そう言って楓は机の上を見せるように手を広げた。
「え…えー!!!」
机を改めて見ると
机の隅に、ラクガキが描かれていた。
「え、ちょっとー!楓ちゃん!何してるの!」
「あっはっは!」
「いやあははじゃないよぉー。というかそのペン油性じゃん!どうするのー!消えないよ!」
「いや、綺麗な物は汚したくなるっていうかね、可愛いでしょ?」
「可愛いけど、そういう事じゃないよ…もー、先生になんて言ったら」
「あ、この子そういうキャラ?いがーい、って思われるんじゃない?」
「そういうキャラじゃないよ…何そのキャラ…」
「でもさ、私と春花って、歳が違うじゃん?だから一緒に授業受ける事なんて無いし、お姉さんとしては可愛い妹が普段しっかりやれているのか心配なんですよ!」
「もうそんな歳じゃないよ…」
「ほら、このラクガキを見るたびに私を思い出してくれれば!ね?」
楓ちゃん…を
そういって彼女はラクガキされた机を見て、描かれたイラストを撫でた。
「もー、書いたのはしょーがないけど、許した訳じゃないんだからね!」
「ままま、そんな感じで、頑張っておくれ!あ!もう昼休み終わっちゃう!またね!」
「あ!うん、また放課後ね!…あ!」
「ん?」
「今日の放課後は、一緒に帰れる?」
不安そうに顔を、椅子から立ち上がった楓に向けた。
「うん!今日は大丈夫!一緒に帰ろ!」
ニコッ満面の笑みを浮かべた楓の顔を見て自然と春花も顔が笑顔になる。
「じゃ!また放課後ね!」
「うん!またね!」
一緒に帰れる。普段からしている事だが、昨日の出来事があってから心配で仕方なかった。
もう一緒に帰れないんだろうか、もし聞いて断られたらどうしよう。
でも、今の彼女にはどうでもよかった。
また一緒に帰れる事が分かった。
また一緒に喋りながら、二人の時間を過ごせる。
その事が分かったおかげで、幸福感で午後の授業はあまり頭に入らなかった。
その日の帰り道、私は幸せだった。
なんて事ない会話、身のならない上辺だけの会話。
でも、楓ちゃんと交わす言葉一つ一つが、安心感で包まれていた。
あの時の感情は何だったんだろう。
嫉妬?私が?誰に、ましてや誰に。
嫉妬なんて、そんな黒い心じゃない。何だろう。
楓ちゃん。
-----感情
ーか、
ーーるかーー
「はーるかー?」
「うぇ?!」
「どーしたの春花、さっきから上の空で、考え事?」
「あ、いや、ちょっとね。」
「ふーん、まぁ、何かあったら相談してね!私達、親友なんだから!」
ズキッ
まただ、なんで何だろう。痛い、苦しい。
楓ちゃん…
「う、うん。」
「あ、じゃあ私こっちの道だから!」
あ、もう、か。
「う、うん!バイバイ!気を付けてね!」
「そっちもね!じゃ!」
あぁ、もう終わりか、変な事考えちゃったな、勿体ない。
私も帰ろっ、また明日、楓ちゃんと一緒に学校行くんだ!
楓と別れて数秒後、私の名前を呼ぶ声がする。
聴きなれた、彼女の声だ。
振り返ると、楓がコッチを向いて手を振っていた。
「じゃーね!、元気出してね!いつもの春花が私は好きだよ!
また明日、待ち合わせして学校行こうね!」
そう言って、ニコッと笑った彼女は自宅の方角に向かって照れ臭そうに走って行った。
本当に、優しいな、楓ちゃんは。
春花は、少し足取り軽く、自宅に向かった。
チャプ…
湯船に浸かり、大きなため息を出した春花は、今日の一日を振り返りながら、携帯を弄っていた。
よく見てるサイトの循環、別に見たい物なんてないけど、なんとなくで弄ってるだけ。
頭の中に、フラッシュバックするあの雨の日の光景
ズキッ
まただ、何だろう。
もう、やめて!
(私達、親友なんだから!)
(いつもの春花が私は好きだよ!)
ズキッ ズキッ
やめて、もう、やめて。
目を瞑りながら出来事を深く考えすぎたその時、携帯に大きな音が鳴り始める。
身体をビクッと震わせ、携帯を湯船に落としそうになるのを回避し、携帯を改めて見る。
か、楓ちゃん。
いつもなら嬉しいが、脳内で色々考えていた為複雑そうに通話ボタンを押した。
「も、もしもし?」
「あ、春花?今大丈夫?」
「う、うん。」
「あれ?今お風呂?」
「え!?そ、そうだよ、よく分かったね」
「音とかで何となくねー、あれ?という事は今春花は裸って事ですか?ほほー、エッチですなー。」
「もー!からかうのはやめてよ!」
「あはは、冗談冗談!で、あの帰り道、何を考えてたの?」
「え?」
「だって、考え事してたんでしょ?なら相談してよ、春花にはずっと笑っていて欲しいし!」
「う、うぅ…」
こうなった楓ちゃんは意志が固い。
少し誤魔化しながら相談しよう。
「こ、この前テレビで見たんだけど、
主人公の女の人が、仲の良い女友達と良く遊んでて、でもある日その女の人が、遊びに行く約束をしてたんだけど、突然やむ終えない事情でキャンセルになっちゃって。
そしたらその日、偶然別の用事で出かけてた主人公はその女の子を見つけて、声をかけようとしたんだけどその女の人は別の人と手を繋いでるのを見ちゃって、
って所でテレビ終わっちゃって。」
「ふーん。」
部屋に反響する音、時々垂れる滴の音。
二人の時間とも言わんばかりの静かな世界。
「その時、変な感情になったって言ってたんだけど、そういう時の気持ちって何なんだろうって。」
「あー、なるほどねー、まー、経験のない春花にはあんまり分かんない事なのかな。」
「け、経験?」
「そ、経験。」
「なんの?」
「それはね、恋ってやつだよ、多分ね。」
「こ、恋!?」
「なんで春花がビックリしてんのさ」
「あ、いや、まぁそうなんだけど。恋って、あの恋?恋愛とかの」
「そ、池に居る魚じゃなくて、恋愛の恋。
その主人公はその女の人に恋してて、でもそれに気付いてなくて、
その時にハッキリと、恋してるって気付いたんだろうね。」
「え、でも、女の子同士だし。」
「まぁ、嫉妬もあるかもしれないし、世間一般的にはあんまり無いと思うけど、そういうのも恋愛の一つなんじゃないかな?」
「な、なるほど…」
「ていうか、何のアニメ?それ、面白そうじゃん」
「え、いや、詳しくは見てなかったからチョット分かんないや、あはは、、、」
「ふーん、まぁいいや。でもとりあえず春花の気持ちとしては解決した?」
「あ、う、うん!ありがとう!」
「オッケーオッケー、そんじゃ、あんま長風呂しないようにね!」
「う、うん!楓ちゃんも、おやすみ!」
「はーい、おやすみ!」
通話が切れる音がする。
携帯を風呂葢において天井を眺める。
雫が天井からポタポタと垂れる音に耳を傾けて、彼女はゆっくり湯船に沈んだ。
恋。
私が楓ちゃんに?
私は、楓ちゃんの事が
好き、なのか…な…
最初のコメントを投稿しよう!