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翌朝五時、やたら重い鍋を引きずり出して火にかけていると父さんがキッチンに入ってきた。米が炊けていることを確認して小鍋でお湯を沸かす。
父さんがスープ用の卵を溶かす隣で俺は手早く弁当を詰め、ミキサーに野菜と果物を放り込む。
「いただきます」
父さんと一緒に手を合わせてスプーンを手に取った。小窓から目映い朝日が射し込む。父さんと二人の静かな朝、けれどカレーの匂いをかぐと昨日の喧噪が蘇る。あいつら本当にうるさかったーー
「いい仲間ができたな」
俺がカレーを見つめていると、父さんは言った。あの三人のドタバタを思い出すと、料理って大変なんだなと改めて思い知らされる。
手にしたスプーンを一旦置いて顔を上げる。
「父さん」
「なんだ」
「毎日、俺のために食事を作ってくれてありがとう」
そう言って頭を下げると、父さんは「なんだ急に」と笑った。俺もなんだかおかしくなって笑ってしまった。
「俺、あんまりおぼえてないんだけど、母さんは料理上手だった?」
「いや、うん。いいや、まあまあかな」
「どっちだよ」
俺が笑うと父さんは仏壇を指さして「いやあそこで聞いてるからな」と困ったように笑った。和室に置かれた母さんの写真は、朝陽を浴びてきらめいていた。
「では改めていただきます」
「いただきます」
父さんと二人の静かな朝。俺はあいつらと一緒に作ったカレーを口いっぱいに頬張った。
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