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伊澄真琴。四捨五入すればぎりぎりハタチな花盛りの乙女(自嘲)。社会人独身アパート一人住まい。社会の厳しさに揉まれつつも、いまだ恋に恋するような夢見る少女をやめられないお花畑思考。そのくせおばさん化現象に歯止めが利かない残念女子。
手鏡を覗き込みため息をつく。
目下の悩みは荒れまくるお肌。乾燥肌やニキビは昔からだが最近はなんだかくすんでいる気がする。とうとう曲がり角に突入だろうか。私も老けたなぁ。
「自分で言っていて悲しくならないか、それ」
いくらか呆れたような青年の声に手鏡の中の私は遠い目をした。
「ものすごく悲しい……」
心が虚無に還りそう。
あまりの虚しさに耐え切れず、ぺしゃりとテーブルに突っ伏してしまう。
「あっ、こら!」
その拍子に手の中から手鏡がこぼれてカタンと音をたてた。
青年の声が低く唸る。
「あ、ごめん」
「ごめんじゃない。繊細なんだ大事に扱ってくれ」
「はい、すみません!」
手鏡を拾い上げ、縁をそっとなでる。
螺鈿の白菊が咲く漆塗りの手鏡。ずいぶん古いもののはずだが、鏡面に曇りなく目立つ傷もない。大切に使われていたことがうかがえた。
「大丈夫。欠けてない」
「欠けてたまるか。これでも九十九の時をこえてきたんだ。耐久年数超過に多少の衝撃なんてなんのそのだ」
えっへんと胸を張るような声音に思わず吹き出してしまう。
笑いすぎてにじんだ涙をぬぐい、先ほどから気になっていたことを聞いてみる。
「ところで、なんで鏡がしゃべっているの?」
「今さらそれを聞くか?」
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