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今日もこの魔法学校では優秀な魔法使いを目指して、みんな頑張っています。
そんな頑張る生徒たちを支える教師たちも、たまには悩んだり落ち込んだりしているようです。
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今日は魔法学校はお休みです。
タミー先生はダフィー先生の家にお邪魔していました。
まぁ普通に散らかっている部屋ですが片づけようと思えば5分ほどで片づけられそうな程度の散らかり具合です。
ソファーに合わせたローテーブルには、スナック、肉類、干物などなどが広げられています。
当のダフィー先生の服装も散らかり具合にマッチするだらしない系の部屋着姿です。普段は綺麗に束ねている長い髪も今日は後ろで縛っているだけの状態です。
「ミツナ遅いなぁ、家すぐそばなのに。もう準備万端なんだけど…」
ダフィー先生はそう言うと、お酒の入ったグラスをタミー先生に渡しました。
「タミーは先に飲んでおいて。タミーは酒が入ってやっと普通にしゃべれるんだから」
メガネをくいっと上げながら、ども、とグラスを受け取り早速一杯飲み干すタミー先生。タミー先生は残業上がりなので今日もスーツ姿です。
ぐぁぁあぁぁぁあ――。部屋に奇怪な音が響きます。呼び鈴が壊れているようです。
「あ。きたきた――」
ほーい、と応えて玄関までダフィー先生が行くと戸の外から、細くて可愛らしい声が聞こえます。
「あの、来ました」
扉を開けると緩めのワンピースを着た可愛らしいミツナ先生が立っていました。肩にかからないくらいの短めの髪の影からたまに見える花のイヤリングもとても似合っていて可愛らしさを惹きたてています。
「いーーーらっしゃぁい!!」
ダフィー先生は半ば強引に手を引くとミツナ先生を部屋に案内しました。
「ミツナ先生の登場でーす!」
「待ってました!」
タミー先生は既にほんのりと頬を赤らめて、片腕をソファーの背にぶら下げています。
「なんだよ、タミー、既にどっかの親父みたいになってるな」
ミツナ先生を自分とタミー先生の間に腰掛けるように促すと、泡酒でいい? と聞くも答えを待たずに栓を開けました。
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「でも、珍しいじゃん、ミツナが私たちに相談があるなんて?」
ダフィー先生はモグモグと最近流行の魔鳥の唐揚げを頬張りながらミツナ先生に聞きました。
ミツナ先生はちょっと照れるように両手でグラスを包むと
「うん……。ほら、前に話した幼馴染のお医者さんいるでしょ? で、2人って男性より、どっちっかって言うと女性の方が好きでしょ? だから、なんというか、男心ってわかるんじゃないのかなぁ……とか思って」
あぁーとうなずくダフィー先生。
け、っと不機嫌そうにタミー先生がメガネを外すと、そんなタミー先生の口に唐揚げを押し込むダフィー先生。
「あぁ、その腕の炎症ずっと診てくれている医者だっけ、はいはい。演算魔法の研究もしているんだっけね?」
包帯の巻かれている右手をさすりながらミツナ先生は話を続けます。
「うん。演算魔法っていうか、どっちかっていうと”演算魔技”の方の研究とかしているんだって」
「うわぁ、ガチの学者さんじゃん。演算魔技って、たまに校長が”科学”とか言っているやつでしょ、ガチじゃん」
「うん。それで、その、グニー先生がね……」
ミツナ先生はふだんお酒でも赤くならない頬を真っ赤にしながらモジモジし始めました。
不機嫌そうに干物を貪りつつ酒をあおっていたタミー先生が、しびれを切らしたように言いました。
「いいか、よく聞いて、人は元来登山家なの。なのに、そこに山があるのに登ろうとしないヤツなんて、人ではない」
ド畜生だ、と言いながらタミー先生は串でツンツンとミツナ先生のお胸をつついています。
ミツナ先生はそんなお胸をかばうようにダフィー先生の方に身体をよじりました。
「もうっ、タミーさん! アドバイスなら胸じゃなくて私に言って!」
すまそん、と冗談ぽく謝りつつも眼鏡の下に笑みを浮かべているタミー先生。ほんとエロ親父です。
ダフィー先生はミツナ先生の頭越しにタミー先生の頭をバケットでポカンと叩きました。
ダフィー先生も冗談に乗っかるようにミツナ先生のお胸に向かって質問しました。
「で、その人でなしなガチな医者がどうしたの? その医者のこと好きなんだっけ?」
もう! と身体を縮めながらミツナ先生は2人を交互に睨みますが、それがほんとに可愛らしい。
ごめんごめん――。タミー先生とダフィー先生は子供をあやすようにミツナ先生に身を寄せます。
話し出すタイミングを計りながらミツナ先生は話を続けます。
「それで、それでね、そのグニー先生が、この前の診察のとき「最近、キレイになったね」って言ってくれたの……」
タミー先生とダフィー先生は顔を見合わせます。
「それで、私、聞き間違いかと思って「最近、キレイになった?」って聞いてみたの。そしたらグニー先生嬉しそうな顔してもう一度「あぁ最近キレイになった」って言ってくれたの」
それを聞いたタミー先生は自分の目を覆いながら言いました。
「くあぁ、聞いているうちらが照れ臭くなる!」
ぷ、はっはと笑いながらダフィー先生も大声で言いました。
「いやぁ、やっぱ医者といえどちゃんと登山家でありましたか、こいつは脈アリですなー」
”脈アリ”という部分が心強く聞こえたミツナ先生は嬉々とした表情で2人の方を何度も見返しました。
「だよね? ちょっと脈ありそうでしょ? これ、私の勘違いじゃない……よね?」
うわー、じゃ、今夜は呑まないと――、そう言ってミツナ先生とタミー先生のグラスに酒を注ぐダフィー先生。
「かんぱーい!」
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3人がしばらくたわい無い話を続けていると、ミツナ先生のスマホが鳴りました。
スっと素早くタミー先生がミツナ先生のスマホを取り上げます――。
「お。メールだ。ふむふむ、”グニー先生”からのようですなぁ」
タミー先生の眼鏡の下に不敵な笑みがニマぁっと広がります。
「返してよ! もう!」
スマホを取り返したミツナ先生は2人から覗かれないようにソファーの背もたれの影に身体を持っていきながらメールを開きました。
当然のようにタミー先生とダフィー先生も両脇から覗き込みます。
【グニーです。ミツナさん、こんな夜分にごめんなさい。実は今日、院長からナノ魔獣博物館の入館チケット2枚もらたんだけど――】
おおぁキタキターー。タミー先生とダフィー先生はミツナ先生を茶化します。
【――それで、ミツナさんの腕から細菌をきれいに除去できたお祝いに――】
”細菌”。うん? 3人は笑顔を引きつらせながら動きを止めました。
「うん? 細菌がきれいになったとは……」
ナノ魔獣のことを演算魔技では細菌といいます。
タミー先生が読み直すと3人は顔を見合わせます。ミツナ先生は笑顔から泣き出しそうな表情に変わっていきます。
ダフィー先生がゆっくりとメールをスクロールさせると、
【――いっしょに博物館に行ってもらえないかなって。本当は医師である自分が患者であるミツナさんを個人的に誘ったりとかしちゃいけないんだけど――】
ミツナ先生の表情は泣き出しそうなまま止まっています。ミツナ先生はそのままダフィー先生の指先にメールを預けます。
【――返事お待ちしています。でも、無理しないでね】
【追伸――】
【最近、イヤリング変えたんだね、今のもすごく似合ってるよ】
ミツナ先生は目をこすりながら、
「今日は帰っていい?」
と2人に聞きました。
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タミー先生とダフィー先生はミツナ先生を玄関まで見送ると、部屋に戻ってソファーに腰を下ろすとテレビに目をやりました。
テレビでは魔獣調伏モノのバラエティが放送されています。
「最近そっちの登山はどうなのよ?」
ダフィー先生がテレビを見ながら言うとタミー先生もテレビを見ながら答えます。
「うん? 全然。むしろミツナを狙ってた。そっちは?」
「私? 私もさっぱりだなぁ」
「あれは、あのダフィーのクラスの帰国子女は?」
「あの子小さすぎ。っていうかそれ以前に自分の教え子じゃん、ないない。タミーも一度くらい男いいんじゃない? それこそ私のクラスのユイオ君なんか見た目ほとんど女子で可愛いじゃん」
「おい、彼もダフィーの教え子だっての。それに男には山がないじゃん、木の根に持ち上げられた道路みたいな膨らみなんて踏みつけてなんぼだよ」
CMになると2人はテレビから目線を離して、お互いのお胸を見てみます。
違うんだよなぁ――2人はハモるように呟くと再びテレビに目をやりました。
「あは、あいつ1時間で89匹スライム倒してるよ、時速89スライムってなかなかの剣技だな」
ダフィーが笑うでもなく言うとタミーも干物を咥えながら
「すごいな。でも、校長は時速765スライムくらい普通らしいよ」
「あー、ミルハ校長はチートだよな、見た目15歳くらいなのにな。てか、大昔の卒業アルバムにも今と変わらない見た目で写ってるって司書の友だちが言ってたよ。……何歳だっつうの」
そんな噂聞くね、都市伝説語りでもするか――。
2人はテレビに目を向けたままどうでもいいような話をして朝まで飲み明かしましたとさ。
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この3人の先生は出身校こそ違うものの今は同じ魔法学校で教鞭を執っています。
喧嘩もしたりしますが、結局3人でいるときがいちばん楽しいという実感があって、いまでは3姉妹と勘違いされる時があるくらい仲が良いようです。
タミー先生とダフィー先生、この日は少し寂しかったのかもしれませんね。
今日もこの魔法学校ではたまにお酒を呑みながら、教師たちも頑張っています。
(おしまい)
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