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エピローグ
東の夜空に流れ星が、ひとすじ、ふたすじと、左上から右下へと落ちていった。
小さすぎて地上に着く前にその身全てを燃やし尽くしてしまう儚いそれらを、人々は嘆くことなく、願いを掛けては想いを馳せた。
子を抱いた一組の親子も、そうして星を眺めていた。
「あら。今年のペルセウス流星群は数が少ないわねえ。彗ちゃんはお願いごと、ちゃんと言えた?」
「うんっ! さんかいゆった!」
「彗は凄いなぁ。お父さん、間に合わなかったよ。それで彗は星にどんなお願いをしたんだ?」
「うんとねぇ、おりひめさまとひこぼしさまが、ずっと、ずうっと、いっしょにいれますよーにって!」
夫婦は笑う。
無邪気な幼子の他愛ない一途な願いに。
父はカササギを彷彿とさせる笑顔で笑い、母は天女を思わせる笑みを浮かべた。
「ふふ。きっと、そのお願いはもう叶ってるわ」
「そうだな。なんたって、彗が願ったんだからな!」
腕の中の宝物を、二人は愛しげに幸せに抱き締めた。
──俺は、ずっと貴方の側にいたかった。
──私は、いつか貴方と歩んでみたかった。
荒れ狂う熱情を胸に、かつて男は星座を発った。
静かに燃える激情を胸に、かつて女は星辰を出た。
「見えるかい? あれが夏の大三角だよ」
男の指先では、いくつもの星々が遠くひっそりと、蛍火のように何億年前の輝きを放っていた。
女は男の隣に寄り添いながら、今夜も同じ星図を見上げ微笑んだ。
〈星図心中・完〉
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