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今日はもうさっさと寝ようと思ったけれど、ちゃんと眠れるはずもない。そうなると隣のベッドの寝返りも気になる。
さすがにあちらさんも寝られないのかなんて考えていたつもりだったのが、遅刻するよ、の声で起こされた。
ええーっ、と飛び起きてばたばたと準備をしていたら、いつも30分の時差で出ていく睡眠不足の原因男が、「じゃ、僕は出るね」と顔を寄せてきた。
「ちょっ」と、思わず胸を押し返していた。
なんだこいつ、と顔を見た。
「何も変えなくていいんだ」
はっとするほど硬い表情で、どこかあきらめのひそむ声だった。
細い糸のような違和感がふわりと浮かんだが、頭のなかの増大した混乱がそれを押し流した。どういう意味だ。
すっと顔が近づき、頬に唇が軽く触れるのを感じた。
「君は今の君のままでいて。そうでないと、僕が困る」
心細そうな笑みを残して、ドアを開けて出ていった。
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