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 突然の饒舌。人は言いわけをしている時に饒舌になる。知り合って9年近く。この人がこんなに長く一気にしゃべったのは初めてじゃないだろうか。それも言うに事欠いて『家族』。 「わたしは妻でなくて、家族」 「いや、妻であり、家族。だから大切なんだよ。いてくれなきゃ困る。ほら、よく言うじゃないか、空気みたいな存在って。いなくなって初めてわかる、みたいな? あ、いなくなられちゃ困るよ、僕は。いてほしい、僕の近くに。でもそれと2年セックスしてないとか、そういうのとは別の問題で、今、そういうこと言われても、僕が君を大切に思ってる気持ちとそれとは違うし、僕は君のことが好きだし、前よりずっと好きになってるくらいだし、でも、だからって……」 「わたしは家族で、空気……」  この人は今、混乱している。本当のことを言っていない。シミュレーションしたうちの最悪のシナリオ? 「いや……、そうは言ってない……っていうか……、そういうのは、まあ、比喩っていうか、たとえれば、そうなるっていうか……」 「わたし、今、あなたの言ってる『好き』っていうのが、どういうのか、よくわからない」 「え……。好き、は、好き、ってことだよ。僕は君が好きだ。そういうこと。だから、もう、ね、こういう話はやめよう」 「やめてもいいけど、それじゃあ何も変わらない」 「え……、変えなきゃいけないの? 君は変えたいの? 今のままじゃいけないって言うの? 僕には君が必要で、君のことが好きで、君との暮らしが幸せで、でも君は、このままじゃだめだって言うの?」
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