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「だめじゃないけど……、だめじゃない……。でも……」
なに、これ。どんどんシミュレーションから外れていく。想定していたのとぜんぜん違う。
「僕はね……、僕は、君とこういう話はしたくない。いやなんだ、こういう話」
「いや、って……。そりゃ、わたしだって、あんまりしたくないわよ、こんな話。でも、大事なことなんじゃないかって思ったから、夫婦のあいだでは、やっぱり、そういうの。なんだか、その……、ずっと、釈然としないっていうような感覚があったから、だから今日、思い切って言ってみたのよ」
「そう……。でも……、でも、しかたないんだ。僕は……、だって、僕は、君にはもう、勃たない……」
太刀が振り下ろされた瞬間。え、そういうこと? そういうことだったの、と頭に血がのぼって熱くなるのを感じながら、あ、そう、と声を絞り出した。頸動脈から血の噴水を盛大に撒き散らしつつ、それでも問うた。
「そうなんだ……。そうか、そうだったんだ。わたしじゃだめ……、そう……それならしかたない、ね……。そうか……。そうなんだ。だめなんだ。あ、あ、でも、じゃあ、わたしじゃだめ、ってことは、あの、つまり……、要するに、誰かほかの人なら大丈夫……って、つまりはそういうこと、なの……かな」
微妙に目を逸らせた。まともに目を見ることはできなかった。斬首の刑。自業自得。自分から問いかけたのだから、最後まで聞きなさい。
「…………違う。違うよ……、たぶん……」
「たぶん……?」
「だって……、だって、そんなこと、君を裏切るなんて、考えたこともないし、いや、もちろん、してないし、考えたくもないし……」
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