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「そう…………。そうか……。うん、わかった……。わかったから、もう、わかったから、あなた、先にお風呂、どうぞ」  うん、と小さくうなずいて、バスルームへ向かった。  わかっていなかった。ちっともわかっていなかったが、そう言うしかなかった。ただ、これ以上の議論が不毛だということだけは、よくわかった。  頭のなかの配線のあちこちがショートしまくっていて、至るところでぷしゅーぷしゅーといいながら煙をあげていた。  今聞いたことをそのまま受け取れば、この家に住んでいるのは出家僧と尼僧夫婦か。いや、手をつないだりライトキスをしたりはするから破戒僧か。ふたりが『どぶさらえ』と呼んでいる何ヶ月かに一度あるマンション周辺の清掃ボランティアに一緒に参加していた上の階や下の階に住んでいる人生の諸先輩方、まあおててつないじゃって仲良しで羨ましいわあ、と囃したててくださったけれど、実態はこれです。破戒僧のなりそこないと、その中途半端な修行に付き合わされている中途半端な尼僧です。  あなたとのメイク・ラブは知らないうちに終わってたんだね、とバスルームの方向に目をやった。34歳と35歳で終わり。いや、2年前だから、32と33? ちょっと早いけど、予定数終了、チーン、ってことか。そんなもんなのかな。まだ子どもは産めるけど、ふたりともどうしても欲しいというほどでもなかったし、こうなってみればいないほうがよかったな。いや、いたほうがよかったのか。ああもうわからない。何をどう考えればいいのかわからない。思考能力が極度に低下している。ひょっとしたら血糖値も血圧も下がっているのかもしれない。
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