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翠色曹達
一隻の客船が大海を行く。
時は夜一〇時半。
満天の星空のもと、ゆったりとした航海だ。
特に今日は特別な夜とあり、船のライトはほとんど消されている。
それもあってことさらに星のまたたきがくっきりと見てとれた。
ある客室のテラスに少女が二人居る。
一二才の双子の少女だ。
名前を、芍薬、牡丹、とそれぞれ云う。
蛇足としてつけ加えるなら、母親は百合と云う名前なのだから笑ってしまう。
ほら。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。
そんな言葉があるだろう?
双子の一家は南の地に移住する海路にあった。
父親が仕事の都合で、東の地から南の地へと転勤になったのだ。
今は七月、夏休み直前の時期で、まだ一学期がやや残っていることを考慮すると、双子が転校するのはずいぶんと中途半端な時期なのだろう。
が、それは新学期が四月に始まる東でのことであって、九月に新学期が始まる南では夏休みまっただなかであり、けっか不都合はない。
父親ひとり単身赴任でもよかったのだろうが、家族が住む国を別にして、遠くはなれてしまうことを母親がよしとしなかった。
それに、双子が転地に大賛成したのだ。
はるかなる地、南へのあこがれがあったから。
今の時代、指先ひとつで世界と繋がれる技術があるのだもの、お友達とはなれたってさみしくないわ。
芍薬も牡丹も、そう言って両親に微笑んだ。
双子は南での今年度、中学校へと進学になる。
新しい学校、新しい友達、新しい隣人に文化のちがう新しい生活。
東の暮らしであたりまえだったことが、南ではどれだけそうじゃなくて、南の暮らしであたりまえのこと、て、一体どんなものかしら?
思い描くに期待で胸がいっぱいよ!
冷房のある快適な客室とて、興奮ぎみで寝つけない今夜に、いっそ眠らず双子は短冊を書いていた。
願いがかないやすい一年にたった一度の今日に、ちょうどで良かったわね、と、双子は目線を交えた。
テラスの丸テーブルにむかい、短冊に文字をつづる。
ざあァ、ざあァ、と云う波音が夜の静寂を心地よくゆらしていた。
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