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第6章 その37
お互いのターンテーブルには同じレコードが乗り、同じ曲の同じ位置に針が合わせられている。
ヴォリュームはマックス。
クロスフェイダーはど真ん中。
流れているのは、どんな曲だろう。
やっぱり“どうしようもない恋の歌”かな。
二人の唇が、ほんの少しだけ離れた。1ミリか2ミリか、ホントにほんの少しだけ。
アタシは息も絶え絶えにささやいた。
「出発、何時だっけ。」
「忘れた。もう、どうでもいい。」
レインはそう言うが早いか、またもアタシの口をふさいだ。
暑い夏の終わりに、二人は空港で溶けてしまった。
でも、レインのことだ。何だかんだ言って、ちゃんと時間通りに飛行機に乗るんだろうな。
それもまた、レインという人の在り方。そんな彼だから、アタシは好きになった。
あーあ。ここに停まってる全ての飛行機が、たった今から全部鉄くずになってくれないかなあ。
レインの柔らかい唇の感触をひたすら求めながら、アタシはそんな下らないことを考え続けていた。
おわり
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