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「お前がほしい」 彼はそう言った。 息せき切ってこのおんぼろ長屋に飛び込むなり、そう言った。 上下する肩に、ほんのり染まった頬。 それを見れば、一目で駆けてきたと分かる。 輝いた目と、微かに上がった口角。 そこから、彼が本当にそうしたいと望み、居ても立ってもいられずにここへ来たことも見て取れた。 しかし、言われた本人の方は座して動かぬ禅僧のように固まっていた。 「は?」  何を言われたのか理解ができず、そう反応するしかない。 「利吉、お前がほしいんだ」 開いた戸口を塞ぐように立ってそう言う彼に、利吉は「は?」の形に口を開いたまま、眉根を寄せた。  
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