チェチェン・イッツア

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チェチェン・イッツア

 二番目に現れた記憶。その時代ははっきりとしない。  後に調べたところでは、この儀式はマヤ王国が滅亡した16世紀より前にすでに行われなくなったらしい。だが、聖なる泉(セノーテ)はスペイン人に支配された後も、巡礼地として彼らの中で重要なものだった。  そこでの俺は雨の神の花嫁となる少女の隣に座っている少年だった。  雨の神ユムチャックへ捧げられる、美しい処女(おとめ)。彼女はこれから聖なる泉へ生贄として放り込まれるのだが、そこに死という概念はない。花嫁は翠色(みどりいろ)の泉の底に住むとされるユムチャックと後の生を共にするのだ。そのために用意された調度品や供物(くもつ)が傍らに山と積まれている。  少女自身も美しく着飾っていた。耳や首に金と宝石が着けられ、やや重たいのか、(こうべ)を垂れている。青白く震える目元は、藍色に塗られていた。  色とりどりの糸で織られた衣装を身にまとい、頭に被せた冠についた無数の羽飾りは、彼女の髪を隠した。  俺たちはククルカン神殿で、その時刻(とき)が来るのを待っていた。  神殿はピラミッドに似た、石造りの四角錐(しかくすい)だ。頂上に拝殿のような一段高い場所があり、そこに俺たちは座っていた。
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