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拝殿のすぐ下には儀式の司祭らしき人物や、楽器を奏でる楽隊が数人いた。ビルの十階分位の高さから見下ろす地上では、点在する灯りに照らされて、同族たちがひしめいていた。
皆、緊張した面持ちだ。歌と踊りはあったが、余計な言葉を挟む雰囲気はない。
俺の役目は、聖なる泉まで雨の神の花嫁を護衛する者だ。
同族一、勇敢な男が選ばれる。
立派な衣装を身につけ、顔や胸には藍の化粧を施され、手には石槍を握っていた。美しい石で出来ているが、先は尖り、立派に武器として通用するものだ。
「……怖いのか?」
少女の両手が震えているのを見て、俺は小さく声をかけた。
重い頭をのろのろと持ち上げたその顔は、長い睫毛の下で黒い瞳が潤んでいた。
「あなたが護衛者でよかった」
たしかに少女はそう言った。硬い微笑みだった。
俺は彼女のことを知っていた。同族一、美しいのだから。自然と男どもの目を引くし、話の種にもなる。ただ口をきいたのは、この時が初めてだった。
自分も怖くないと言えば嘘になるが、なぜか彼女にはそれを気取られたくなかった。この先どうなるのかは、自分たちが一番よくわかっている。
神の御許へ行くとされているが、ただの人身御供なのだ。
というのは(今の)俺が後に調べて知るのだが、この記憶から実は二人も自分たちの行く末を薄々感じていたのがわかる。
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