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平和な3人組
時は平安時代末期。
源氏が日本という国を治めてた時代。
「う、うわああ! お……お前は……!」
蒸し暑い真夏の夜。
不気味なほど暗く人通りが少ない道に1人の男が叫び声を上げた。
「ふはははは! 我が名は弁慶! 貴様の刀を奪いに来た!」
弁慶と名乗るその大男は月にまで届きそうなほどの大きな笑い声を上げ薙刀(なぎなた)で切り掛る。
「うわあああああーーっ!!」
弁慶に薙刀で切りつけられた男は劈く悲鳴を上げ、呆気なく息絶えていった。
返り血を浴び、頬についた血を軽く拭うと弁慶は無情にも鼻歌を歌いながら男から刀を抜きとる。
「999本。あと、1本で1000本だな。どぉれ、誰かいないかなぁ?」
テンプレのようなセリフを呟き、辺りを見渡すと、
ーーピューっ。
と、どこからともなく笛の音が聞こえてきた。
その音色は優しく、でもどこか芯のある綺麗な音色。
「こんな遅い時間に……誰だ?」
あまりにも綺麗な音のため、引き寄せられるように音のする方へと無意識に足を運んだ。
少し歩くと五条(ごじょう)大橋という橋に辿り着いた。そこに居たのは1人の小柄な少年。
淡い水色の髪を1つに束ね、華奢な体つきで、もし服装が男の服じゃなかったら危うく女と間違えるくらい可愛らしい姿だった。
だが、それは見た目だけ。
実際には彼は男だ。服装もそうだが、腰についている刀が物語っている。
「……楽勝だな」
勝ちを確信して、呟くとそれが聞こえたのかその少年は笛を吹くのをピタリとやめて振り向いた。
大きく吸い込まれそうな水色の瞳は海のようで、小さな口は血のように紅い。そして、雪のような白い肌は人間離れしているもので、その妙な美しさに弁慶は思わず息を飲む。
「あ、僕がここにいたら邪魔だよね。すぐ立ち去るよ」
その少年は小鳥のような綺麗な声で話しかけてきて、弁慶ははっと我に返った。
「その必要は無い。我がお前を今すぐ消し去ってやるからな」
弁慶は言い終わるか終わらないかくらいに薙刀を少年に向かって振りかかり攻撃する。
「そんな物を振り回すなんて危ないよ?」
少年は持っていた扇を弁慶に投げながら華麗に飛んで避け橋の欄干に乗った。
下駄にも関わらず欄干に乗った少年のバランス力は驚異的なもので弁慶も一瞬怯んだ。
「なっ……!? ま、まぐれだ!」
「まぐれだと思うならもう一度かかって来なさい」
「調子に乗るな!」
再び薙刀を振るうがその少年は右に避け左に避けと1ミリもかすりはしない。
少年のその様子はまるで舞でも舞ってるかのように身軽で美しかった。
「なんなんだ! 貴様は!」
呼吸を荒くして薙刀を降ろすと、少年は煽るような笑みを浮かべる。
「もう降参? 図体だけ大きくて大した事ないね?」
「なっ!? 舐めるな!!」
弁慶は再び薙刀を上にあげ、攻撃の構えに入る。
「ーー辞めなさい。君では僕に勝てない」
少年のハッキリとした物言いに弁慶は薙刀を上げたまま止まってしまった。
「ふざけるな!」
ヤケになってもう一度薙刀を振り下ろすが、やはり少年はいとも簡単に避ける。
と、ついに弁慶の懐に入り込み少年は優しい目で弁慶を見上げた。
少年の腰には刀は刺さったまま。いつ殺されてもおかしくは無い。
弁慶は薙刀を橋の上に投げ捨て両手を上げた。
「……降参だ……」
力なく告げると少年は微笑んだ。
「気に入った。僕の家来になる気はない?」
「はぁ!?」
弁慶は信じられないとでも言いたげに目を見開き聞き返す。
だが、少年は表情を変えずに真っ直ぐな目で弁慶を見据えた。
「君の目的は刀を集めることでしょ? 僕達の間では結構有名人だよ」
「それがどうした」
「だからね、僕が刀を集めることよりも楽しい事を教えてあげるよ」
目を輝かせている少年の申し出に弁慶は嘲笑を浮かべる。
この少年は確かに只者では無い。だからと言って、こんな女みたいな見た目のやつの下につくほど弁慶は落ちぶれていなかった。
「一体何を教えてくれるんだ? 鞠突きか? それともかるた遊びか?」
「君は僕を女だと思ってるのかい?」
挑発の発言にも少年は顔色ひとつ変えずに笑顔を浮かべている。
ここまでくると、一抹の恐怖すら感じてきて弁慶も思わず表情を引き攣らせた。
「違うのか?」
「違うよ。僕は牛若丸だよ? 知ってるでしょ?」
「へー、牛若丸ねぇ……」
牛若丸。源家の1人で、弁慶でも名前だけは1度や2度耳にしたことがある。
だが、聞いたことがあるくらいで実際に目にしたのは今が初めてだが。
「そんな牛若丸さんはいったい我に何を見せてくれるというんだ?」
「うーん。それは僕の家来になってからのお楽しみって事で!」
牛若丸は愛くるしい笑顔を向け無邪気に告げた。
適当な回答に呆気にとられた弁慶だったが自分相手にこのような態度を取る人間はなかなかいないためなんだか面白いとさえ思えてくる。
もしかしたら、本当に刀狩りよりも面白い世界を見せてくれるかもしれない。と弁慶の心は大きく揺れ動いた。
「ほんと、貴様はどうかしてる。だが、悪くない。いいだろう貴様、いや、牛若丸殿を我が主と迎えよう」
「ああ。よろしく頼むぞ弁慶!」
牛若丸と弁慶は2人とも満面の笑みで固い握手を交した。
これが牛若丸と弁慶の初めての出会いであった。
続くーー。
「ーーいや、ちょっと待てよ! 何お前らが主人公みたいになってるわけ!? 続かねぇから!」
牛若丸役のリュークと弁慶役のタンが橋の上で熱い演技をしていると1人の黄金色髪の少年が割り込んできた。
彼の名前はアレン。リュークとタンの仲間だ。
「あんた達もさっさとどっか行け!」
シッシッと大きく手を振り、陰ながらリューク達の演技を撮っていたプロカメラマンやスタッフ達を追い払っている。
「何言ってんの? ボクが主人公に決まってるじゃん。超イケメンだし? 超可愛いし? もう完璧!」
リュークがあざとくウインクをしながらさも当然かのように言う。
「うーん。まぁ、リュークの方が可愛いから、その方が物語的に映えそうな気がしなくもないっすね。かわいいは正義っす」
タンも何度か頷きリュークの意見に賛同する。
「おい! お前より俺の方がモテるし! たぶん! ってか、なんだよ今のやつ。牛若丸と弁慶の出会いって……」
「かっこよくないっすか!」
アレンの指摘にタンがドヤ顔で告げると、アレンは急に感情を失なったかのような無表情に変わった。
「お前らがやるとなんか違う」
「……上から目線うざいっす……」
タンに蔑むような目を向けられ、アレンは表情を歪ませる。
まるで、ピカソの絵画のように……
そこに、釘を刺すようにリュークが不敵な笑みを浮かべて口を開く。
「みなさーん! アレンって知ってますかぁ? え? 知らないの? まぁ、所詮現代の人達からしたら無名もいいところだもんねっ。この後に及んで知ってる人なんて1人もいないでしょっ!」
「ぐはっ……! そ、それ言ったら、俺の立場が……ってか、お前だって知ってる人なんてあんまいないだろ!」
「あっくんに立場なんて最初からありますぇーん。せいぜい通行人Aでもやってればいいのだ!」
リュークはアレンを嘲笑いながら続けた。
「それに、ボクはあの書かれたら人が死ぬっていうノート持ってる死神と同名だし。有名っしょ」
「同名でもお前じゃねぇだろ!? そんなんで騙されるか! このナルシスト女男野郎!」
「はぁ!? お前みたいなファッションセンスクソダサ男に言われたくないね!」
売り言葉に買い言葉とだんだんとヒートアップしていき、これ以上口喧嘩されると収拾がつかなくなりそうだ。これは毎度の事なのだが、話が進まないため誰かに止めてもらいたい。
そこで空気を読んだタンは呆れた表情で口を開く。
「おいおい、2人共少し落ち着くっすよ。リュークも言い過ぎっす」
「「落ち着いてますぅ!」」
だいたい察しはついていたが、タンが止めに入っても2人の熱は収まらない。
こうなってしまったら2人の気が済むまで争いが止まないため、放っておこう。
という事で、彼らの紹介を軽くしよう。
アレンとタン、それからリュークはサタンの元で働いている悪魔仲間だ。
昔のアレンとリュークは天使だったのだが、とある事でアレンが神の怒りをかって堕天使となった。
リュークはそんなアレンの後を追うように自ら堕天使となったらしい。
この2人、仲が良いのか悪いのかいつも言い争ってはいるが、昔っから十年来の友のようにいつもすぐそばに居る。
まぁ、実際は何百年以上もの仲だけど。
タンはそんな2人のお兄さん的存在。口数は少なく影も2人に比べると薄いが、2人のことをよく見守っている。
彼はアレンとリュークが悪魔になってから出会った悪魔だ。魔界に行って右も左も分からない2人を優しく迎え入れてくれたのがこの彼である。
タンのような優しい悪魔もいるのだから悪魔も捨てたものじゃない。
しつこいようだが、彼等は悪魔。
サタンの命令を受け日本を支配すべく偵察をしに来ている。決して遊びに来てる訳では無い。
冒頭では平安時代と言ったが、実の所今は安土桃山時代。
戦国時代と呼ばれるその時代は争いを頻繁に起こす人間達が多く、悪魔達はこの混乱を上手く使いあわよくば日本を支配下に置けるのではないかというなんとも都合のいい考えをしていた。
ちなみに、この3人は人間界では毛ほども有名ではないが1人1人がずば抜けた実力を持っていて、とても強い。
特にアレンとリュークは天界にいた頃から大天使ミカエルのすぐ下についていたほどとても有能な者たちだった。
そのため、魔界でもある程度高い身分に身を置かせてもらい、たまにサタンからこういった命令を受けたりしている。
今からそんな彼らの「日本征服頑張るぞ」という超ウルトラスーパーミラクルダサいネーミングの物語が始まるーー。
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