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 生身と幽霊といった奇妙な関係になってから、最早口癖のように問う。Oもまた、「この部屋の景色」だとか「Kの顔」だとか茶化すことはしない。  レンズ越しに見ているOの世界を蛍夏に刻み込むかのように、答えてくれるのだ。  少しの間を開け、Oがゆっくりと話しだす。 「コンクリートの額縁に収められたレースの輝き。丁寧に編まれた透かし模様の向こう側には、灰色の(そら)に向かって真っすぐ伸びる大きな槍が無限に広がっている。静寂と安らぎ、癒しと孤独に包まれた世界では、目の前を行き交うワーム()ですらも、どこか愛おしく思えるのだから不思議なもんだ……」  詩的に語られる景色は、美しさの中に不穏な空気を感じさせる。蛍夏はOの言葉を脳内で復唱しながら、不意に窓の外へと目を向けた。  晴れ渡っていた青い空は、いつの間にか灰色の雲に覆われていた。今にも泣きだしそうな曇り空を見て、今日の出発は諦める運命なのだと悟った。
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