プロローグ

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 それは数年前に開催された、写真愛好家によるグループ展のものだ。Oも、カメラを通じて知り合った友人に誘われて参加した。大勢の中の一人だとはいえ、初めてOが展示会で発表した作品を知っている人なのだと思えば、つい頬が緩む。  単に、ネタが欲しいわけでも、にわかファンでもない。ただ、純粋にOの作品を見てきた人だというのが、それだけで分かる。  無言のまま記者の鞄をじっと見るものの、色の濃いサングラスをしているため、彼はこちらの視線には気が付いていない。ただ、記者から話しかけられて以降、無言のまま立ち尽くしている蛍夏の様子に戸惑っているようだった。  返事はしていなくても、蛍夏が水嶋本人かどうかは疑ってはいない。その証拠に、彼が蛍夏の前から立ち去る気配はない。 “一年前の美談”は、周知の事実だ。  しかし、目の前にいる彼は、“一年前の真実”を聞きたいものの、どう切り出せばいいのか分からないといった顔をしている。  記者にしては、あまりにも人が良すぎる。
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