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「ごめん。俺、死んだ」  すでに内々定を貰った大学最後の夏休みのことだ。朝方まで友人とカラオケでオールした蛍夏は、昼過ぎに目が覚めた。  寝ぼけた頭をスッキリさせようと、洗面所で顔を洗う。ふと、何かの視線を感じ、顔を上げる。すると、鏡越しに二週間ぶりの彼氏とご対面を果たしたのだ。  真面目な顔をして、蛍夏の背後に彼が立っている。合鍵を渡してある彼が、ここにいるのは何らおかしくはない。  ただ、いま耳にした彼の第一声に、思いっきり顔を顰めたのは、当然のことだと思う。  この世の中に、実際に目にしている人間の口から「死んじゃった」と言われて、誰が信じるというのか。そんな奴、いるわけがない。 「バカじゃないの?」  帰ってきて早々、ふざけたことを言う彼に、蛍夏は悪態をつきながら振り返った。
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