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ホットコーヒーはブラックで。
閉め切れていなかった窓の隙間風が
カーテンを揺らし、チラチラと閉じた目の上で光を踊らせた。
つけ忘れたアラームと床に転がる缶ビール。
目蓋をこじ開けると言うには
ゆっくりしっかりと
100年の眠りから覚めるように開けた。
鼻から、今日初めての空気を吸って、
口からため息まじりに吐き出した。
この部屋には時計はない。
夜中のカチカチ音がストレスで、
入居初日の日に電池を外してダンボールにしまった。
時計のない部屋では、
スマホかテレビに映る時間が時計代わりになる。
だから起きてすぐにテレビをつけるのが日課になっていた。
今日も
飲み過ぎて痛む関節と、少しの気持ち悪さを引きずりながらテレビをつけてコップに
水を注いだ。
13:35
テレビに映し出されている味気のないデジタルな表示に、ため息を吐き出さないように
カルキ臭の強い水を飲む干した。
でも
血でも混ざっているんじゃないかと思える。鉄のような味の水に
結局ため息を吐き出した。
BGMと化していたニュースで
昨晩2つ年下の女の人が居眠り運転の車にぶつかって亡くなったと報道されていた。
地元で起きた事件で年が近く、もしかしたら知り合いかも知れないと
いたたまれないような、気持ちになるが。
結局、名も知らない赤の他人。
悲しいことに僕の中で
日々の日常とかし
忘却の彼方に永遠に消えてしまうのだろう。
他人が死んだとしても当事者にならなければ、それは、ただの日常なのだ。
床に転がる缶ビールを拾って、お湯を沸かし、
ペーパーフィルターが残り2枚になっているのを確認して
最後の一枚を大切に直し
コーヒーを入れた。
さっきまで血が混ざっているような味の水が
心地の良い苦みに後味に残る渋み
そして、鼻腔をくすぐる香ばしい香りのする黒い水に変わる。
一口つけてゆっくりコップを机に置きながら
いつも中身の変わらない少し大きめの鞄を横目に
テレビのスイッチを切った。
清潔感のある、綺麗にアイロン掛けされたシャツに着替え、
残ったコーヒーを飲み干して
鞄を持って家を出た。
いつも通りの道に、いつも通りの公園で、いつも通りなにもせずに時間を潰した。
少し違うのが道の一角がブルーシートで囲まれているぐらいだった。
一週間前、会社を退職した。
別にたいした理由はない
何ならいい会社だった。
休みもちゃんとくれるし、
たまに残業なんかもあったけれど、その分キチンとお金もくれた、
人間関係も良好だったと思う。
ただ、あることをしないといけない、と言う衝動から会社を辞めた。
けど何もできず
ただ怠惰に日常を過ごしている。
今日も公園でコーヒー片手に時間を潰し
帰りに酒を買い眠りにつくのだろう
あ!そういえばフィルターが最後の一つだった、買わないと
コーヒーのゴミを捨てようとベンチから立ち上がったと同時に目の前が歪んで見えた。足はふらつき吐き気が襲う。
座りすぎて貧血?を起こしたのだろうか
そのままふらつきベンチにもう一度座ろうとした。
だが!
座れなかった。
座ろうとしたベンチがなくなっていた。
嫌!ベンチが無くなったのでわない地面自体が無くなっていた。
小学生の頃やられた座る瞬間に椅子を引かれたような感覚
その驚きと恐怖心が長くなったような。
尻もちを着くはずの地面がなくなり
背中ら空中を落ちているような感覚に
驚いて閉じてしまっていた目を見開いた。
そこは言葉で表すことができそうにない光景が広がっており、正直意味が分からないという言葉がしっくりくる。
唯一分かることと言えば、その謎の空間を下に下に落ちているということだけだ。
……
………
しばらく落ち続けていたら
頭の後ろの方から風景が白く染まっていく。
染まっていくという表現で合っているのか分からなかったが一面真っ白になった瞬間
自分の部屋のベットの上にいた。
内側から響くような頭痛と関節の痛み、少しの吐き気。
想像するに昨日も沢山呑んでしまったようだ。
どうやって帰ったか覚えてはいないが昨日とほぼ変わらず床に缶ビールが転がっている。
昨日はたくさん呑んでしまったのだろう。
だからよく分からない空間に落ちる夢なんて見てしまったんだろう。
曖昧な記憶にふらつきながら、お湯を沸かし
缶ビールを拾って、コーヒーを入れようとした。
あれ?
フィルターが2枚残っている?昨日見間違えたのか?
と言うか昨日買わずに帰ったのかと落胆した。
コーヒーを入れ終わりテレビをつけた。
13:40
ちょうど昨日と同じ女の子の事故の話をしていて
また少し、いたたまれない気持ちになった。
それに何か違和感を感じさせた。
昨日と全く同じ時間に同じ事故のニュース、
小さな違和感だったが
丁寧にアイロンのかけられているシャツに
その違和感は大きいものになった。
昨日記憶がなくなるまで泥酔したはずなのに
まるで一昨日アイロンをした時くらいに綺麗にできている。
……
………
…
一呼吸置いてベッドの横のケータイを取って日付を確認した。
全くもって度し難いことに
昨日と日付が全く変わっていない
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