<23・姫君の殺意>

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<23・姫君の殺意>

 どうしてこんなことに。こんな筈ではなかったのに。 それはきっと、多くのやられ役の悪役が最期に抱くのと同じ思考であったのだろう。マリアンヌも、まさにそんな理不尽さを抱きながら、消えていく自分の体を見つめていた。  ザインの民は、基本的に生命力が地球人を上回る。  頭を砕かれても、体を真っ二つに裂かれても、ある程度の時間は生存できるしその時間の間に再生することも可能だ。幹部であるマリアンヌは特にその能力に優れている。ただの攻撃ならば、額から貫かれたところでもう一度体を再生させ、再び戦闘可能な状態まで持っていくことができるはずだった。  だが、今マリアンヌの体は、金色の光に焼かれて燃えるように消滅していこうとしている。  魔法攻撃はこれだから恐ろしい。魔力よって細胞を焼き、あるいは凍死させられてしまうと復活することが叶わない。特にエリオスの民の魔力は、ザインの民の肉体に対して非常に相性が悪かった。そのせいでかつての戦いでも、多くの部下達が姫騎士と姫の二人に甚大な被害を与えられ、死んでいくことになったのである。姫に至っては、当時の幹部も何人も葬り去っていたのではなかっただろうか。 ――私達は、断じて悪なんかじゃなかった。それなのに、こんな、こんな風に消えなければいけないっていうの?  自分達もただ、生き残りたかっただけだ。  生き残るため、豊富な資源を持つ惑星が欲しかっただけ。皇帝陛下とその血をを守るために必死で宇宙船を操舵し、やっとの思いでこの地球まで辿りついたというのに。此処でどうにか一族を復興させ、再起を図ることこそ――散っていった者達の悲願。そのためにはなんとしても負けられなかったというのに。 ――申し訳ありません、クオース様。私は、お役には立てなかった……!  ああ、願うことならば、最期に一目だけでもあの人に会いたかった。もっと贅沢を言うのであれば、嘘でもいいからあのお方に“愛している”という言葉を貰いたかった。  どうしてあのお方は、いつも傍にいる自分達ではなく、あの女を選ぶのだろう。  あの忌々しい、エリオスの民のプリンセス。あの女はザインの民の軍門に下ることは勿論、己があの偉大な皇帝陛下の后になることも拒んだのだ。陛下の妻になり、生涯愛されること以上の幸福など何処にもないというのに、あの女が選んだのは頼りないあの姫騎士で。自分の誘いをただ一人断ったあのプリンセスの幻影に、未だ陛下は囚われ続けているのである。プリンセスが、この地球でどんな姿になって転生しているのかさえ全くわからないというのに。もしかしたら、人の姿でさえないのかもしれないというのに。
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