仕事の愚痴~孤独死編~

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仕事の愚痴~孤独死編~

これは、仕事の愚痴というか……まぁでも“キツいなぁ”と思ってるから愚痴でいいのか。 あおじが仕事でキツいと感じる出来事、それはそんなにしょっちゅうあることではないのだが…… “警察からの電話” である。 あおじの職場は田舎の小さな個人医院。町医者、診療所、クリニックとか言われるやつね。 “田舎の小さな個人医院”と聞けばどんな年齢層の患者様が来院されるか想像がつくと思うが、ほぼ高齢者。75才以上の後期高齢者が圧倒的に多い。 そして、田舎でよくある“息子家族は街の方に住んでいて、配偶者には先立たれて今は一人暮らしなのよ”パティーン。 “老人が一人暮らし”。もう不吉なことしか感じられないフレーズ。そう、 “家の中で一人で亡くなっていた” つまりは孤独死。これはよくある出来事だ。 職場では毎日電話がよく鳴る。 馴染みの患者様なら声だけで名前も顔も直ぐに思い浮かぶ。 迷惑電話なら電話番号をメモして今度から絶対に取らないようにする。 県外の電話番号なら大抵変な内容なので悪いが最初から取りもしない。 薬局からの電話なら“はい、かけてくると思った!”と患者様のカルテをあらかじめ用意して待ち受けてる。 そして、あおじが一番気が重くなるのが……。 「こちら、岡山○△警察署ですけど」 という電話。 警察署という言葉を聞いた瞬間、ひくひくと顔が引きつる程嫌になる。 だって、絶対にこう続くから。 「そちらの病院にかかられていた一人暮らしの田中さん(仮名)なんですが、実はお家で倒れているをご近所の方が見つけて、お亡くなりになられていました。警察が現場を調べた所、そちらの病院の診察券とお薬の袋が見つかったので、どういう病気でそちらにかかられていたのか教えて頂けないでしょうか?」 顔も名前も知っていて、言葉を交わした人が亡くなったことを急に警察から聞かされるのは、頭の中がトぶ。まじで。真っ白になる。 ちなみに、お家で心臓が止まった場合は救急車には乗せられないので警察を呼ぶことになる。第一発見者は家族でも取り調べになるので些か面倒。 持病で亡くなったとしても、警察は一応他殺か、自殺か、病死かを調べないとならないので。この時にかかりつけ医院とかにも警察から連絡がいく。 在宅看取りなら警察沙汰にしなくてもいいのかな? でも逆にいえば心臓さえ動いていれば救急車に乗せて病院まで運んでもらえる。 あおじの同居祖父は自宅で療養していたが呼吸が止まって実質的には死亡していたが、たまたま顔を見せにやって来ていた兄夫婦に介護経験があり、心臓マッサージをやり続けてくれたので救急車に乗せることが出来た。 話を戻す。 警察の人は患者様がどんな様子で亡くなっていたのかを教えてくれる。 あおじが一番印象に残っているというか、頭にこびりついているのは“受話器を持ったまま倒れて亡くなっていた”というもの。 苦しくなって、救急車を呼ぼうとしたがそこで事切れたのかと想像するとなんともやるせない。 あとはお風呂やトイレで亡くなっていることが多い。かくゆうあおじの母方の祖父も一人暮らしで、トイレで亡くなっていた。勿論警察沙汰になった。 警察以外にも他の患者様から「山田さん(仮名)、お家で亡くなってたみたいよ」と聞かされることがある。 “……山田さん(仮名)、そういえば最近姿を見ていなかったなぁ”と思う時もあれば、“嘘でしょ。つい数週間前に来院されたばかりじゃん!”と驚くことも。個人的に後者が精神的にはキツい。 亡くなった患者様のカルテの扱い。 “○月□日、永眠されました”と記入した後、メインの棚からサブの棚へと移すのだが……この作業大抵冬場によくやっている気がする。 冬はお葬式が続くものだというが、やはり寒さもあり亡くなる方が多いからだろう。 数年前の冬、地元でお葬式ラッシュがあったのを今でもよく覚えている。その中には患者様も含まれていた。 あおじの好きな季節は冬(蛙が冬眠しているので)。しかし、あまりに寒い冬だと“今年の冬は一体何人の方が亡くなるのだろうか?”と不安になる。 こういう話をすると、あおじが感受性強くてどれだけ傷つき悲しんでいるのだろうかと心配されるかもしれないが、あおじはわりと冷淡な性格でタフなのでご心配には及ばず。その時は驚いたり悲しくなったりはするが、何事もいつまでも引きずったりせず直ぐに切り替えられるタイプなので大丈夫。 だから、もし自分が引きずるタイプだったら今よりも相当キツいんだろうなぁとしみじみ思う。 小さな診療所では患者様との関わりがどうしても深くなるので、もし医療事務で働こうと考えている感受性が強い方がおられるなら大きな病院の方がいいと思う。まぁあおじ自身大きな病院で働いたことがないのでよくは分からないが、個人医院よりは患者様との濃い接触は少ないはずだ。 ああ、そういえば。警察からかかってきた電話で拍子抜けしたものがひとつ。 プルルルル あおじ「はい、**内科です」 警察「こちら、岡山○△警察署ですけど」 あおじ「……あ、はい、どういったご用件でしょうか?」(誰だ? 今度は誰が亡くなったんだ? 最近見かけないあの人かな? それとも──) 警察「そちらの先生の奥様が、還付金詐欺に引っ掛かりそうだった所を銀行の方が気がついて通報してくれました。その連絡を一応しようとお電話しました」 あおじ「……え? あ、はい、そうですか。……ええと、先生にかわります、なんか、すみません、」 その電話を受けた前日に、待合室の掲示板に警察から貰った“還付金詐欺に気をつけよう!”というポスターを貼ったばかりだったので何とも言えない気分だったわ。 まぁ人のお話を聞かない奥様のことだから、犯人から指示されたことなんてしゃらくせぇ! と思って、銀行の人に、 「何だかよく分からないのだけどお金が返ってくると聞いたの。そこの貴方、私の代わりに全部手続きをやって下さるわよね??」 とか言って発覚したのだと思う。さすがは。 孤独死もそうだが、還付金詐欺などの振り込め詐欺にも注意したいところである。 おわり!
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