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(あーくそ、無駄なセックスをしてしまった)
桐島が帰りシャワーを終えた俺は、テーブルに置いてあるタバコに火をつけ深く吸い込み、天井に向かって消えていく煙を呆然と見つめる。
浮気、不倫、不貞行為にパパ活、離婚。
ネットや週刊誌では、芸能人や政治家が日常的に叩かれているけど、欲望に負けてしまう他人を叩ける人間というのは、きっと人肌が恋しくて焦燥感に駆られることとは無縁な、清く正しい人々なのだろう。
まあ、医者で恋人もいるくせにノコノコとここへやってきたあいつは、俺よりもっとやばい奴だなと、自分で呼び出しておいて思ったりもするが、学歴や肩書きと人間性が必ずしも一致しないことなど、一時期芸能界に片足を突っ込み、あらゆる人間と関わってきた俺は、嫌というほど知っていた。
小さくため息をつきながら窓の外に目を向けると、夕方から降り出した雨が、闇夜の暗い雲からいまだ静かに落ちつづけている。
虚しくなるだけだとわかっていたのに桐島を呼んでしまったのは、久しぶりにきた母親からの電話のせいだった。
『おめおっちゃんのお葬式さ来ねがったんだから、三回忌は来なさいよ』
『んだがら無理だって、死ぬまでおらば拒否すたのおっちゃんだべ。それに、今さらおらが行ったって、女装した息子帰ってきたって白いまなぐで見られるのおがぢゃん達だよ。おらが行ったら兄貴の家族にも迷惑なだけだべ』
『…おめにはまだ言ってねえっけけどね、実は真理さん、真由ぢゃん置いて出て行ったっけのよ。色々言われるのも嫌だがら、今年は家庭の事情ってごどでおらやおっちゃんの兄弟には遠慮すてもらって、身内だけでするごどにすたって皆には言ったでね』
『はあ?嘘だべ?いづ?』
驚愕の声をあげながらも、その時俺は、心の奥底で喜んでいる自分を自覚していた。
(全く、32にもなっていつまで引きずってんだか。全てが中途半端なくせに、あんにゃへの気持ちだけは全然ブレないところ、ほんと自分でも怖えわ)
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