第一話

4/4
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/27ページ
「…やば!」  久々にあの日の唇の感触と、慎司と呼ぶ兄の声を思い出し、手が股間に伸びそうになった俺は、慌てて手を引っ込める。せっかく桐島を呼んで性欲を解消したのに、また一人で抜いたら意味がないし体力を消耗するだけだ。 「ったく、あんにゃの思い出に浸りながらやりたかったのに、あいつは喋りすぎなんだよ」  お門違いの八つ当たりをして、俺は、新しいシーツに取り替えたばかりの、寝室のベッドに潜りこむ。  あれから15年、兄とは一度も会っていない。  なのになぜ、今だに強く焦がれてしまうのか?  案外会えば、すっかり老けたおっさんになったなと落胆し、ただ遠き日の思い出に変わるのだろうか? 「寝よ寝よ」  母の電話は、父の三回忌の話だったというのに、兄のことばかり考えてしまう自分を親不孝だと呆れながら、俺は目を閉じ眠りに落ちた。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!