115人が本棚に入れています
本棚に追加
「見せて」
「……は?」
永田くんは、なにをいわれたのかわからないみたいだった。
口のなかであふれてきたつばを、ごくりと飲みこむ。
「永田くんがオナニーしてるところ。わたしに定期的に見せて」
永田くんは口をあんぐりとさせた。そして「え、なにいってんの? まじで。キモイんだけど」とせせら笑う。
「じゃ、じゃあ、栗原さんにいってもいいんだね」
「……いってみろよ。そうだ。いってみろって。だれも小泉さんのいうことなんて信じねえよ。栗原もな」
「そう……。わかった」
やっぱりだめかーっ。だよね……。
失意のうちに永田くんに背を向ける。今後、どんな顔をして永田くんに会えばいいのだろう。いまさらながらそんなことを思い悩みつつ視聴覚室を出ようととびらへ向かう。
だけど、それはかなわなかった。
永田くんが、わたしの右腕をとっさに掴んだのだ。
刺されるっ。
あわてて振り返ると、小さなつむじ風が吹いている永田くんの頭頂部だけが見えた。
「ごめん。……わかった」
「え?」
「見せる。見せるから。……だれにもいわないで」
かわいそうに、永田くんは手も声も震えていた。
そして、わたしの胸も震えていた。歓喜で。
「わかった。だれにもいわない。約束する」
「……いつ見せればいい?」
「今日」
「今日っ? あ、いや。……わかった」
永田くんは、ほんとうのほんとうにすべてをあきらめたようだった。
「いっとくけど、勃たなくても文句いうなよ」
「え? 立たなくてもいいよ」
「……は?」
「座ったまましてくれて、大丈夫」
笑ってそういうと、永田くんはあっけにとられて「わけわかんねえ……」とつぶやいた。
「あ、永田くん。LINE教えてもらってもいいかな?」
「……はい」
こうしてわたしたちは、友だちという曖昧な関係をとっこえて、脅迫する側とされる側という、明確な関係になった。
最初のコメントを投稿しよう!