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 こんなに放課後が待ち遠しかったことがいままであっただろうか。  六時間目の授業は生物で、教科書もきちんと持ってきていたけれど、早乙女先生が開きなさいといったページが何ページかわからなくなって、まあいっか、と、適当なページを開いた。  永田くんとのこれからに思いを馳せていたら、いつのまにか黒板の半分が消されていて、もう半分をあわてて書き写そうとしたけれど、いまさら半分だけ写してもな、と、シャープペンをほうって妄想に没頭した。  今日が六時間目までしかない日でよかった。七時間目まであったらわたしは気が狂って死んでしまっていたかもしれない。  さっき視聴覚室を出る前に、そういえばどこでする、という話になった。  わたしの家には妹たちとお母さんがいるし、なにより永田くんの産み出した液体をわたしの家のごみ箱に捨てるなんて、ちょっと、いや、かなりいやだった。  それを永田くんに告げると、永田くんはちょっと傷ついたような顔をした。そういう表情のひとつひとつが、いちいちわたしをときめかせる。  あまり使われていない教室とか公園の公衆トイレとか、いろいろと案がでたけれど、けっきょく永田くんの家でいいということになった。永田くんは、そんなことを考えるのもわたしと話しているのも、ひどく面倒になったようすだった。  だらだらと時間を浪費するだけの授業が終わってすぐ、わたしは永田くんにLINEをした。「逃げないでね」、と。  右斜め前の席で、スマホを見やる永田くん。しばらくのあいだ体を固めてから、ぎこちない動きでスマホをポケットにしまった。たまらない。たまらないよ、永田くん。  いっしょに歩いているところを見られたくないと永田くんがいうので、わたしたちは時間差で学校を出て永田くんの家の近くにあるコンビニで待ち合わせをした。  コンビニで待っているあいだ、永田くんが来なかったらどうしようと心配になったけれど、永田くんは、このくらいの時間、といったちょうどぴったりの時間に来た。  コンビニで目が合った永田くんは、手持ち無沙汰で雑誌を読んでいたわたしを一瞥すると、あごをしゃくって出てこいと合図をした。  あわてて雑誌を棚に戻す。レジのすぐ横に置いてあったガムを引っ掴んでお会計をした。  永田くんから一メートルほど距離をとって、あとをついていく。  永田くんは背中ですらかっこよくて、さすが学年の人気者と思ったけれど、わたしはかっこいい永田くんにはあまりときめかなかった。湿り気のないさらさらの髪も、清潔な真っ白いシャツも、あの日の永田くんにはかなわない。  コンビニから歩いて五分くらいの位置に、永田くんの家はあった。モデルルームみたいな家に住んでいるんだろうなと勝手に思っていたから、新しそうでもないふつうの一軒家がお目見えしたときは夢から醒めたような気持ちになった。アイドルの家も、意外とふつうの家だったりするんだろうな。  玄関をくぐると、他人の家の匂いがして緊張する。  お邪魔します、という小さな声が玄関に響いた。
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