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永田くんは逡巡したあと、はあっ、と、はっきりすぎるため息をついた。「勃たなくても文句いうなよ」とわたしに念押しをする。
たつとかたたないとか、いったいなんのはなしなんだろう。まだ不勉強なところがあったのだろうか。
だけど、あまりにあれこれ永田くんにきいてしまうと優位に立てなくなってしまいそうなので、宿題として持ち帰ることにした。わたしは脅迫している側なのだから。
永田くんは半ばやけくそぎみにベルトとボタンを外し、チャックを下ろした。パンツを下ろすときはさすがに少しためらっていたけれど、それもたった数秒だけで、すぐに下半身すべての衣服を脱ぎ去った。
上半身は制服を着ているのに、下半身が裸。そして、靴下は履いたまま。正直、とても情けない。いまの永田くんの姿は、とてもじゃないけれどクラスの人気者にはみえない。
だけど、情けなくて、かわいい。宝石のように輝くはずのそれも、だらんとうつむいているさまがなんともかわいらしかった。
ベッドに腰をおろした永田くんは、ひざの上で拳を握った。
ここまできて、まだ葛藤なんて潔くないことをしている。わたしときたら、さっきからあの日の永田くんが鮮明によみがえってきて、おなかの底がいたたまれない雰囲気になっているというのに。
「永田くん。早く。はじめて」
永田くんの前に正座して、まっすぐに見上げる。
あきらめたように、永田くんはついにやんわりと右手でそれを握った。
はじまりはわたしの妄想とちがい、とても乱暴なものだった。ぺちぺちと音を立てながら、それを太ももにぶつけている。
静かに眠っている小動物を叩き起こすかのような作業。そんなことして痛くないのとたずねたら、痛くない、とのことだった。男の子の体ってふしぎ。
数分、作業を繰り返していたけれど、永田くんはぜんぜん悦な感じにならなかった。永田くんのそれも、右手に包まれてすやすやと眠っていて、起きる気配がない。
永田くんが動きを止めた。
「無理だって。やっぱ勃たない」
「ええっ?」
無理、と唐突にいわれて、おもわず眉間にしわが寄る。
「たたないってなに? 膨らまないってこと?」
「そう」
「どうしてっ」
「どうしてって……だっておれ、見られながらしたことねえもん」
あたりまえだろ、とでもいわんばかりに、永田くんも鼻にしわを寄せた。
わたしは泣きそうになった。
「そんな……。困るよ、ちゃんとやってくれないと」
「……なんなのほんと。意味わかんねえよ、小泉さん」
「そうだっ。目をつむって栗原さんのことを考えたら?」
妙案を思いついてそう提案する。
永田くんは早く終わらせたいようで、素直に目をつむった。
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