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ぺち、ぺち、ぺち。室内に渇いた音が響く。
ロスタイムで同点を迎えたサッカーの試合を見守るサポーターのごとく、わたしは祈るようにして作業を見守った。
変化してきたのは五分ほどたってからだ。
永田くんの手の動きが変わった。ぺちぺち、と、しゅっしゅっ。それを、リズミカルに繰り返している。
手に包まれたそれも第二形態を迎えていた。ようやくきちんと起床して、重力に逆らってだんだんと天井を向いていく。直立する、ローズクオーツの原石。
永田くんの口から短く息が吐き出される。
半分開いた花びらからは、赤い舌がのぞいていた。
「あっ、きもち……」
永田くんが声をもらす。眉がせつなげに寄っていて、まつげが小刻みに震えている。泣き出す寸前の女の子みたい。
まるく膨らんできた先端から、ぷっくりと水晶玉が現れた。水晶玉をなでつけるように手のひらをくるくると回すと、またしゅっしゅっとする。小鳥のないしょばなしの正体は水晶玉だったんだ。その作業を繰り返すたびに、ないしょばなしは大きくなっていった。
「あ。やばい。も、出そ……」
出る? もう出ちゃうの?
おもわず声をかけてしまいそうになって、あわてて口を塞ぐ。
永田くんの邪魔をしちゃいけない。いま、永田くんの薄いまぶたの裏では、栗原さんが永田くんのいいようにされていて、そこにわたしはいない。わたしが少しでも声を出してしまおうものなら、永田くんは興ざめしてしまうだろう。
「あー、もう。だめ。いく、いく」
大きくなるないしょばなし。磨かれてきらめくガーネット。悦ぶ永田くん。
かわいい。かわいすぎるよ。永田くん。
「あっ、いくっ」
宣言どおり、永田くんは大きく体を痙攣させながら元気な液体を産んだ。男のひとなのに産むなんて、とても神秘的。
永田くんの産み出した液体は、弾丸のように勢いよく部屋の壁に飛んだ。
「あ、やべ」
永田くんがあわてたようにティッシュを掴んで、萎みはじめたガーネットを包む。
わたしは壁についた液体をみつめにいった。
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